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生物はなぜ死ぬのか

2021年12月31日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

今回は目先を変えて生物学の本のご紹介をします。

著者はゲノム genome( 遺伝子 gene と染色体 chromosome をあわせた合成語)、すなわち遺伝子情報の専門家である小林武彦東京大学教授、タイトルは「生物はなぜ死ぬのか」です。

おどろおどろしくもそれでいて妙に知的好奇心をくすぐられる何とも言えない魅力を放つタイトルだと思い手に取ったものです。

本書は、「生物」の「死」そしてその途上にある「老化」の仕組みについて生物学的見地から実に論理的に説明してくれています。

まずは、生物の存在そのものが奇跡であることが良く分かるその発生確率に関する衝撃的な説明を本書から引用します。

「25メートルプールにばらばらに分解した腕時計の部品を沈め、ぐるぐるかき混ぜていたら自然に腕時計が再び完成し、しかも動き出す確率に近い」

凄まじく低い確率であるということがよく分かる説明ですが、これだけ低い確率の事象発生が実際に起こるのに必要だったのが地球が誕生してから生物の誕生までの6億年という途方もなく長い時間だったわけです。

続いて、「老化」がなぜ人間をはじめとする多くの多細胞生物に存在しているのか本書は以下のように説明しています。

「がんは細胞分裂による遺伝子のコピーミスの蓄積によって生じる細胞の異常増殖であり、これを避けるために二つの仕組みがあります。一つは免疫機構。がん細胞が発生するたびに早い段階でこれを攻撃する仕組みです。そしてもう一つが細胞の『老化システム』です。これは細胞にあらかじめ自死プログラムを組み込んでおくことで、細胞ががん化する前に新たな細胞に入れ替わることを可能にする仕組みです。この二つによって若い時のがん化が大部分抑えられていると言えます。しかし、それでも55歳くらいが限界でその年齢くらいからゲノムの傷の蓄積量が限界に達し、異常細胞の発生数が急増するのは避けられません。別の言い方をするとヒトは進化で獲得した想定寿命の55歳をはるかに超えて長寿になってしまったということです。」

この説明をうけて、織田信長が好んで舞ったとされる「敦盛」の一節の「人間五十年」とはつくづくよく言ったものだと思わされました。

しかしながら、この「老化システム」は人間を55歳程度まで生き長らせるためのものにすぎず、その先には必ず「死」が避けられないという事実に変わりはありません。

つまり、人間をはじめとする多細胞生物の死亡率は100%であり、その意味ではあらかじめ「死」が生物にプログラムされていると言えます。

ではなぜ、生物は死を前提として生きているのか。

この疑問が冒頭に書いた「何とも言えない魅力」そのものと言ってもよいと思いますが、本書にはその「死が生物にプログラムされている理由」についても、以下のように非常に説得力がある説明をしてくれています。

「少し残酷な感じがしますが、多くの生き物は食われるか、食えなくなって餓死します。これをずっと自然のこととして繰り返しており、何の問題もありませんでした。つまりざっくり言うと、個々の生物は死んではいますが、たとえ食べられて死んだ場合でも、自分が食べられることで捕食者の命を長らえさせ、生き物全体としては地球上で繫栄してきました。また、自分(個体)が死んでも子孫を残していれば問題ありません。どちらにしても『命の総量』は変わらない(いやむしろ増える)という意味で必然なものと考えられます。そのことを直接的に体現した生き様(死に様?)を持つ生物を紹介します。ムレイワガネグモの母グモは生きている時に自らの内臓を吐き出し、生まれたばかりの子に与え、それがなくなると自らの体そのものをエサとして与えます。まさに死と引き換えに生が存在しているのです。ただ人間をはじめとする大型哺乳類はクモなどと違って子孫に命をバトンタッチして『あとはお任せします』ではすみません。子孫が独り立ちできるようになるまでは、しっかり世話をする必要がありますので。」

つまり死は、そもそも回避すべきものではなくむしろ生き物「全体」が最も効率的効果的に反映するための最適化システムであると考えられます。

また、人間や大型哺乳類の寿命が20~80年、特に人間の「老化システム」が上記のように55歳程度までを想定しているというのは非常に説得的だと思いました。

ここで本書の命題である「生物はなぜ死ぬのか」に答えることができます。

つまりそれは「死は生命の連続性を維持するために必要不可欠なものとしてあらかじめ積極的にプログラムされたもの」だからです。

とはいえ、人間は唯一「感情」を持つに至った生物でもあるので、本書の説明に納得感を得ながらも、この「最適化システム」である「死」をまったく抵抗感なく受け入れることが他の生物に比べて圧倒的に難しいのも確かです。

 

 

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