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第三世界の発展は悪いことか

2020年10月23日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

ここのところ「(労働)生産性」について考えることが多かったので、もう少し深く掘り下げてみようと思い一冊の本を読んでみることにしました。

ノーベル経済学賞の受賞経験があるアメリカの経済学者ポール・クルーグマン ニューヨーク市立大学教授の「良い経済学悪い経済学」です。

本書は1997年の原稿をもとにまとめられているので著者がノーベル経済学賞を受賞する前の著作ということになりますが、冒頭から非常に手厳しく世の中にあふれる「経済論争」を批判しています。

その批判の理由はそれらが正当な経済学の理論を無視した「素人」の議論なのに、正当な経済学者の理論よりも世の中で高く評価され、また国家の政策にも大きな影響を与えてしまっているということです。

その議論の一つに当記事のタイトルである「第三世界の発展は悪いことである」というものがあります。

最近はこの「第〇世界」という表現をあまり聞かなくなっていますので、まずはここで簡単な定義を確認しておきます。

・第一世界:もともと冷戦期の西側の国々を意味する言葉として使用されたが、現在では先進諸国を意味する。

・第二世界:冷戦期の東側の国々を意味する言葉として使用されたが、その意味では現在はほとんど使われなくなっている。

・第三世界:冷戦期に第一・第二のいずれにも属さない国々を意味する言葉として使用されたが、現在ではアジア・アフリカ・ラテンアメリカを含む発展途上国を意味する。

つまり、この議論は、「発展途上国が発展することは先進国にとって良くない」のではないかというものです。

これは、「悪いこと」と表現するかは別としても、私も含めて先進国の人間からすると少なくとも「脅威」と感じることは一般的だと思います。

その点について著者は、「貿易戦争(国際競争力)」というような言葉が存在するとおり、それは「経済」と「軍事」という本来全く性質の異なる事柄を、同じ性質のものとしてとらえるものであり、正当な経済を学んだものにとってはあり得ないもののとらえ方だと言っています。

「軍事」はあらかじめ決まった大きさのパイを取るか取られるかの「ゼロサムゲーム」です。

それに対して、「経済」は第三世界が豊かになることでパイはいくらでも大きくすることができるから「プラスサムゲーム」です。

第三世界が発展してその国民が第一世界の国の上顧客になることになるので、第一世界にとって部分的には「脅威」とみなす分野があったとしても、全体としてみたら「機会」につながることを、正当な経済学の考えを活用して説明をしてくれています。

この「経済」を「軍事」と混同してしきりに危機感をあおる人たちが、政府の政策決定に大きな影響力を持つようになることについて、著者は本書の中で、すなわち1997年の時点で次のように明確に懸念を表明しています。

「国際競争力にとらわれていると通商摩擦が激化し、世界的な貿易戦争すら引き起こしかねないことである。競争力の重要性を主張する人たちは、自国が脱落しないよう、勝利を収められるよう望んでいる。しかし、いくら努力しても勝利できないと思えたり、その確信が持てなかった場合にはどうなるだろうか。その場合、競争力という観点からは、高賃金の職と価値の高い産業をすべて外国に奪われるより、国境を閉ざした方がましという結論になる。少なくとも、国際経済関係のうち、競争という側面に焦点を当てていれば、公然たる保護主義とまでいかないにしろ、外国との対決姿勢を望む見方を強める結果となる。」

これはまさに、今のアメリカ、トランプ政権の在り方そのものをみごとに予言したものだと私は感じられて仕方ありませんでした。

ただ、1997年から20年以上が経った今、そのころにはそこまで懸念されていなかったもう一つの問題が国際社会の前に立ちはだかっています。

それは、SDGsに本気で取り組まなければいけないことを私たちが自覚し始めたように、地球がすべての人類が豊かな生活をおくることを前提としたキャパシティを持っていないということが明らかになってしまったことです。

ですが、それは決して第一世界の私たちが第三世界の人々に対して、いつまでも貧しいままでいてくださいとお願いすることで解決されることではないことも私たちは理解しなければなりません。

 

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