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続・続・究極のキャッシュレスの形

2021年10月3日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

前々回、前回に引き続き、今回も「中国経済の属国ニッポン」という本からテーマをいただいて書きたいと思いますが、今回のテーマは「デジタル人民元」です。

少し前に私はこのブログ記事「続・究極のキャッシュレスの形」にて、「現行の通貨を発行する国家もしくは中央銀行が主導して行われるデジタル通貨」を実現可能性は現時点にて低いという見通しをご紹介しましたが、本書では中国がその実現に前向きな姿勢を示しているという事実が明らかにされています。

以下にその該当部分を引用します。

「中国はRCEP(東アジア地域包括経済連携)の締結と同じタイミングで、大都市圏を中心にデジタル人民元の配布を開始しましたが、これは将来的な通貨覇権の確立を狙ったものとみて間違いありません。中国はこれを通貨として流通させるため、中国人民銀行法の改正を予定していますから、本格的な取り組みと考えてよいでしょう。中国は市中銀行が中央銀行に預けている準備預金をデジタル人民元に置き換え、市中銀行は希望する利用者にデジタル人民元を提供するという仕組みです。利用者は専用の口座を開設することで自身の預金口座からデジタル人民元を引き出すことができます。各国の中央銀行はこれまで通貨のデジタル化に対しては総じて否定的なスタンスであり、研究は行っているものの、実際に流通させようと考える国は存在していませんでした。というのも、各国の通貨当局は既存の金融システムから莫大な政治的・経済的な利益を得ており、一気にデジタル化を進めてしまうと、これまで得られていた利権が失われる可能性があるからです。ところが中国政府だけは、法定通貨のデジタル化に積極的であり、デジタル人民元の開発を独自に進めてきました。今回、大規模な実証実験をスタートしたことで、そう遠くない時期にデジタル通貨の本格運用を始めることになるでしょう。」

私が「究極のキャッシュレスの形」という記事で「キャッシュレス通貨は現行の「通貨」を発行する国家もしくは中央銀行が主導して行われるべきだと思う」などと偉そうに書いたのが、2020年11月11日で、デジタル人民元が実際に配布されたのがRCEPが締結されたのと同じ2020年11月15日ということで、ほぼ同時にこの大きなニュースがあったことになります。

自分自身の勉強不足を心から恥じ入りました。

とはいえ、日本銀行を含め、各国の中央銀行が研究はすれど軒並み否定的なスタンスをとる中で、中国政府だけがここまでアグレッシブに取り組むのでしょうか。

本書では以下の通り、人民元の「基軸通貨化」への目論見こそがその理由だと言います。

「通貨当局が利権を失いたくないという事情は中国にとっても同じであり、本音ではデジタル人民元の早期実用化は望んでいなかったかもしれません。にもかかわらず、他国に先駆けて急ピッチでデジタル人民元の流通をスタートさせたのは、デジタル人民元を通じて米ドル覇権に挑戦するという意思表示をしたかったからです。現在中国は『一帯一路』というユーラシア大陸における中華経済圏を確立するための各国への支援政策を行っています。しかし、いくら中国が人民元でそれらの国へ支援をしても、やがては貿易を通じてドル経済圏に取り込まれてしまいます。しかし、アプリを使った小口現金決済の分野からデジタル人民元の流通をスタートさせれば、ドルに支配された大口資金ルートとは全く別ルートで人民元を普及させることが可能となります。そのうち、支援地域における個人や法人の送金の一部がデジタル人民元に置き換わった場合、最終的には大きなシェアになる可能性は否定できません。当初はゲリラ的に周辺領域から取り込み最後にはオセロのようにひっくり返すというのは、農村を拠点に包囲し、最終的に革命を成功させた中国共産党の毛沢東思想そのものです。」

恐るべき壮大な計画を実行に移している中国の政策能力に脱帽です。

その一方で、日本はこのタイミングで渋沢栄一翁の肖像で新札切替を計画しているなど、考え方のスケールが中国とはまるで違うことに危機感は募るばかりです。