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資本主義はなぜ自壊したのか

2019年2月3日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

十年以上「積読」状態だった本をたまたま本棚の後ろから見つけて読んでみました。

その本とは、かつて一橋大学のスター教授であった現在、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの理事長である中谷巌氏の「資本主義はなぜ自壊したのか」です。

本書の中で著者は本書を「懺悔の書」として、以下のように書いています。

「構造改革や規制緩和をキャッチフレーズにして登場した新自由主義思想、そして、そのマーケット第一主義によってもたらされたグローバル資本主義の大潮流が、日本のみならず世界中に様々な矛盾や深刻な問題を引き起こしてしまった。この大きな歴史の流れの中、私自身はまさにこの『構造改革』の急先鋒たる一人だった。かつて私は規制緩和や市場開放などを積極的に主張し、当時の政府与党の政策の枠組みを作る手伝いをした。中でも小渕内閣の『経済戦略会議』の諸提言のいくつかが、のちの小泉改革にそのまま盛り込まれている。つまり、私は間接的な形であっても、いわゆる小泉構造改革の『片棒を担いだ男』の一人であるのだ。その意味で本書は私自身の『懺悔の書』であると同時に、『小さな政府』や『自己責任』といった公共利益よりも私的利益を重視した新自由主義やグローバル資本主義の欠点を是正するためのありうべき方策の方向性について提言したいと思う。」

本書の著者は、私が一橋大学の学生であったときが、スター教授として最も輝いていた時だと思います。

具体的には、彼の書いた「入門マクロ経済学」という本は様々な大学で経済学の教科書として指定されていましたし、1999年には、国立大学の教授の民間企業の役員との兼任が認められていなかったルールを変えようと動き、認められないとなると中途退官して、ソニーの社外取締役に就任するなど、国立大学の教授としては本当に華やかに活躍されていました。

そして当時、本人が指摘されている通り、新自由主義やグローバル資本主義は飛ぶ鳥を落とす勢いで日本を席巻しており、その是非を議論するような雰囲気はほとんどありませんでした。

しかし、その雰囲気のさなかにその考えに異を唱えていた人が私のすぐそばにいました。

それは、私のゼミの担当教官であった村田和彦先生です。

村田先生は、その新自由主義やグローバル資本主義全盛の雰囲気の中で、全くそれらの考えなど意に介さず、ご自分の経営学原理として「企業のステイクホルダーは経営者と株主だけでなく、取引先、従業員、そして市民社会までも含む」という考え方を「愚直」に説いていました。

当然、そんな調子ですから村田先生の著書は売れません。(笑)

当時、中谷教授のような一橋のスター教授の本は、経営という堅い分野の本なのに普通の書店に平積みされていて、そのような教授のゼミの学生をうらやましく感じたものです。

当時、私は村田先生に大変失礼にも、「先生も売れる本を書いて有名になってくださいよ~」などと半分冗談半分本気で言ったものです。

すると、村田先生はニコニコしながら「秋山君、経営学原理は時代を超えて一つなんだよ。」と当時の私にはまったく理解不能なことを言って、私のその失礼な発言を全く意に介しませんでした。

現在、株価も高いレベルを維持しており、「戦後最長の好景気」などと言われているのに、その実感が得られないのはなぜかという疑問に対する答えが書かれた本として、先日、「デフレの正体という本を紹介しました。

そこでの説明を要約すると、以下のようになります。

「企業は従業員の人件費を下げ、取引先への委託費を下げることで利益を最大にしようとします。そして、将来のリスクに対応するために、その利益を内部にため込みます。そうなるとどうなるか、この企業の株価は当然上がります。しかし、企業からお金が外に出ないわけですから、従業員も、取引先もどんどん貧乏になります。また、極端な話、例えば地域住民も、お祭りなどの寄付がもらえなくなってしまいます。こうなると、企業が最高益を出し、株価も最高になることで株主や経営者は潤うけれど、世の中は株主や経営者の数よりも圧倒的に従業員の数のほうが多いわけですから、世の中の好景気の実感をわかないというわけです。そうなると、企業からものを買うのは圧倒的に数の多い従業員であるということを考えると、この構図は結局は、企業にとってもマイナスとなり、日本全体の力は衰退していくことになるというわけです。」

私は今になって、ようやくわが師の思慮深さに感動しました。

なぜならば、村田先生が、「企業のステイクホルダーは経営者と株主だけでなく、取引先、従業員、そして市民社会までも含む」ということを重視して、株主と経営者だけを対象とした経営学は長くは続かないということを新自由主義やグローバル資本主義全盛の雰囲気の中で言い続けていたことに気づいたからです。

私も今なら、先生の「経営学原理は時代を超えて一つなんだよ。」という言葉は本当に深かったんだと感じられます。

思い返せば、卒業の時に村田先生からいただいたはなむけの書は「愚直」でした。

これからは、改めてその意味をかみしめながら歩んでいきたいと思います。

 

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