ベーシックインカム実験で分かったこと
2024年9月8日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
以前にこのブログで「ベーシックインカムの実験」に関する記事を書き、次のような実験結果から導かれた結果を明らかにしました。
「五人に一人以上の子供が貧しい暮らしの中で育つアメリカでは、すでにいくつもの研究が貧困の撲滅が実際に経費削減の手段になることを示している。カリフォルニア大学のグレッグ・ダンカン教授は、一つのアメリカ人家庭を貧困から脱出させるためには、平均で年間4500ドルかかると算出した。そして、この投資は子供一人当たりに以下の成果をもたらす。
勉強時間の増加:12.5%
福祉費用の節約:年間3000ドル
生涯賃金の増加:5万ドルから10万ドル
州の税収の増加:1万ドルから2万ドル
ダンカン教授は貧困の撲滅は『貧しい子供が中年になるまでに採算がとれる。』という結論を出した。」
その上で私は、以下のようなまとめの文章を書きました。
「このようなことから、貧困を撲滅するために最も効果的なことは、どんな工夫を伴った福祉政策よりも『ただでお金を配ること』であるというのが、著者の結論です。そして、それは決して、そのお金を受け取る人間を堕落させないという主張を伴います。つまり、この議論は卵(貧困)が先か鶏(愚かさ)が先かの類ではなく、明らかに卵(貧困)が先であるという結論に行きつくため、まずはそれをお金で解決することが最も合理的だとするものです。」
ただ、このグレッグ・ダンカン教授が行った実験がどのような内容のどれほどの規模で行われたのかについての詳細情報はなく、どのような実験結果をもとに上記のような結果を導き出したのかについての情報はほとんどありませんでした。
ところが、先日(2024年9月3日)のNewsPicksの記事で、OpenAIのCEOのサム・アルトマンが支援した数千人規模の研究プロジェクト「OpenResearch」が無条件現金給付(UCT)に関する米国最大の実験から得られた結果発表に関する記事が取り上げられていたのを見つけました。
当該実験の概要はこのようなものです。
「テキサス州とイリノイ州に住む、平均年間所得3万ドル未満の3000人が参加した。このうち3分の1は3年間にわたって毎月1000ドルを受け取り、残りの3分の2は、毎月50ドルを受け取った。」
その実験結果は以下の通りです。
まずは「消費行動」の変化について
「ほとんどの受給者は、そのお金を麻薬やアルコールではなく、生活必需品に費やした。彼らの月々の支出は平均310ドル増え、支出のトップカテゴリーは食費(67ドル)、家賃(52ドル)、交通費(50ドル)だった。また、彼らは毎月約22ドルを他人のために使った。さらに、給付によってお金のかかるニーズにも対応することができた。例えば月1000ドルを受け取っていたグループは、過去1年間に少なくとも1回は歯科医を受診した割合が、月50ドルを受け取っていたグループより10%高かった。しかし、月1000ドルを受け取った人の大半は、現金給付が自動車ローンや住宅ローンといった負債の増加によって相殺されることが多く、純資産が増加することはなかった。また、月1000ドルを受け取った人々は、研究の最初の1年間はストレスが軽減したと報告したが、その効果は2年目には薄れた。血圧、コレステロール、肥満などの健康指標にも持続的な改善は見られなかった。」
続いては、「新たに生じた時間」の管理について
「現金受給者(月1000ドルの受給)は、起業や就学に対してより高い関心を示した。しかし、彼らはより多く働いたわけではなかった。彼らが働いた時間は、対照グループ(月50ドルの受給)よりも週平均で1.3時間短く、これは年間で8日分に相当する。一方彼らは、時間の管理がしやすくなったという恩恵を受けていた。一部の受給者は子どもたちに時間を割くようになった。こうした労働時間の短縮は、一人親の世帯でより顕著だったと研究者は指摘する。この傾向は、30歳未満の人々により顕著にみられ、学校に在籍しているケースも多かった。プログラムの3年目に教育または職業訓練を受けた割合は、現金受給者の方が対照グループより14%高かった。」
この実験結果から導き出せる一つの評価として、OpenResearchの研究ディレクターであり、政治学者のエリザベス・ローズは、「現金があれば、人々は特定のニーズを満たすことができるが、それがすべての問題を理想的に解決するわけではない」として、当初考えられていたBI万能説(グレッグ・ダンカン教授が行った実験結果)のような楽天的な側面ばかりではないという考えを示しています。
また、同じくこの実験結果を受けたOpenAIのCEOのサム・アルトマンは、テクノロジーの進歩によって仕事がなくなるなかで何らかの形で所得保障が全国的に導入される日がいずれ訪れる可能性はかなり高いとしつつ、それによって「食べていけなくなる」という不安を抱く必要がなくなったとして、そのことが人々の幸せにつながったり、それによってできた時間によって多くのことを成し遂げ、より社会に利益をもたらすようになるのかと言われたら、必ずしもそう断言できるような劇的な成果がこの実験で示されたとは言い切れないと、ローズと同じく、BI万能説(グレッグ・ダンカン教授が行った実験結果)を支持することは難しい可能性を示しているように思えました。
この実験の総評としては、この研究の著者のひとりでもあるトロント大学のエヴァ・ヴィヴァルト氏が示した次の言葉に、私も強く共感せざるを得ませんでした。
「このプログラムの費用対効果は、おそらく主に子どもたちへの影響によって決まるでしょう。したがって、結論を出すのは時期尚早だと感じます」