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ゆっくり、いそげ

2021年7月11日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

私の中での反響が大きかったこともあり、前回まで「世界は贈与でできている」の中からテーマをいただいて、言語関係の記事を二回にわたって書きましたが、今回は本書の中で紹介されている、「ゆっくり、いそげ」という本をご紹介します。

本書は、言ってみれば「贈与」の仕組みを実際の社会の中で回している方が書いた本です。

著者である影山知明氏は、東京大学を卒業された後、資本主義の旗振り役ともいえる「マッキンゼー」を経て、ベンチャーキャピタリストというこれまた資本主義のゆりかごみたいな仕事を経験されたのち、現在「クルミドコーヒー」というまさに「ビジネス(資本主義)」と「贈与」の間の絶妙なバランスを保った喫茶店経営を実践されている方です。

著者のバランス感覚は次のような言葉にも表れています。

「売上や利益は、自分の仕事に対する社会からの評価だ。新しい技術やアイデアで世の中が劇的に変化していく様子にワクワクするし、競争は自分を高める貴重な機会とも考える。ただ、一方でビジネスが売上・利益の成長を唯一の目的としてしまいがちで、人や人間関係がその手段と化してしまうこと、人を利用価値でしか判断しなくなってしまうこと、さらにはお金が唯一の価値であるかのように経済・社会が回ることで、時に景観が壊され、コミュニティは衰退し、文化は消費される対象となるなど、金銭換算しにくい価値が世の中から失われていく状況にも忸怩たる思いを抱いてきた。」

著者が経営する「クルミドコーヒー店」は、「普遍的にいい」と言われるものを「不特定多数」に提供する形はとっておらず、カフェというエンターテイメント、つまりモノを売る「点」ではなく空間で時間を過ごしてもらうという「線や面」の接点を「特別にいい」と認めてくれる「特定多数(というか中数)」に提供する仕組みです。

なぜなら、「普遍的にいい」と言われるものを「不特定多数」に提供すれば、「資本主義の原理」で価格競争は避けられないからです。

著者は実際に、「特別にいい」と認めてくれる「特定中数」を自ら見つけ、直接届けられれば、それは持続可能性を獲得することができるということをクルミドコーヒー店の経営で証明されています。

しかも、それは一方的な「テイク」の関係ではなく、お店とお客、そして経営者である著者と従業員の双方向で「ギブ」の関係を作り上げることで可能となると言います。

つまり、これは前回の記事で見た「贈与」の概念そのものだと思いました。そして、それはこの資本主義社会の中でも実現可能であるという事実に希望を感じました。

 

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