代表ブログ

逆・タイムマシン経営論

2020年11月4日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

今回は、共著がいますが久しぶりの一橋大学楠木教授の著書「逆・タイムマシン経営論」の紹介です。

本のタイトルがユニークなのは、その共著者が「社史研究家」という非常にユニークな職業の人物であることに大いに関係していると思います。

名前は杉浦泰氏、彼は大学生当時から社史研究に没頭し、数百社の歴史を比較検討していたと言います。

具体的には、日経ビジネス、週刊東洋経済、週刊ダイヤモンド、プレジデントなどの経済メディアの記事を過去60年にわたって追いかけ、「The 社史」というサイトを運営するという非常に「特殊」な仕事です。

本書は、その杉浦氏の「特殊」な仕事に楠木教授の「論理」な仕事がブレンドされた非常に「深い」内容になっています。

本書が伝えたいその「深い」内容とは、「歴史を読み返すことによって、それぞれが現在進行形で起こっていたまさにその時に世の中がどのように考え、行動していたかを確認することで物事の本質を浮き彫りにする」ことです。

そして、あの世界最高の投資家ウォーレンバフェットの次のような言葉を引用してそのことを強調されています。

「潮が引いた後で誰が裸で泳いでいたかが分かる」

このように潮が引いたあとで吟味されることは、自身が裸だった場合(一般的にはその可能性のほうが高い)、その時その時現在進行形で行動していた人にとっては非常に恐ろしく恥ずかしいことだと思いますが、逆に俯瞰させていただく私たちにとっては非常にエキサイティングで贅沢な体験でもあります。

本書には、無数の事例が紹介されていますが、その本質が最も分かりやすい事例に触れた部分を以下に引用要約したいと思います。

「1990年代後半に日本で旋風を起こしたERP(統合基幹業務システム)について見てみます。これは日本市場における普及途上において『魔法の杖』であるかのように受け取られていました。バブル崩壊後の日本企業はそれまで各部門ごとに情報の管理を行っており、一つの企業に様々なシステムが混在していてとても非合理的な状況にあってコスト削減を迫られていました。そこに、『会計』『人事』『生産』『物流』『販売』を統合して効率化を図るシステムが登場したわけですから。しかし、業界に先駆けて導入した参天製薬などを除き、ほとんどの日本企業は導入に失敗しています。その理由は、業務プロセスの改善のための手段であるERPを手段として用いたか、それとも目的化してしまったかの違いです。参天製薬は社長自身がコンピューターの本質を理解し、その力を業務プロセスの効率化に結びつけるために、自社の業務の流れをERPに合わせるように改善しました。その結果、従来よりも少ない人数で経営判断に必要な情報を得られるようになったのです。しかも、それ以上の期待もしていませんでした。一方で多くの日本企業は、なんだかよくわからないが魔法のような力を持っているであろうERPに大きな期待をしつつも自社の業務の流れを変えるのではなく、ERPを自社の流れにあわせるようにベンダーに対して要求しました。これでは、何のためにERPを導入するのか分かったものではありません。つまりは、世の中で騒がれているERPを導入すること自体が目的となって、『世の中に後れを取るな』という号令の下にただ焦って導入しただけです。」

このように俯瞰して当時の状況を見ると誰もが、当時の日本企業の多くが陥ってしまった「手段の目的化」の様相が手に取るように分かり、その経営者の多くが「ピエロ」のように見えてきてしまいます。

参天製薬の当時の社長 森田隆和氏はまず、「ERP」の本質を見抜いて、自社の課題にそれを当てはめることをしただけなのですが、多くの経営者にはそれができなかった。

ですが、私たちは簡単に彼らを笑いものにして終わりにすべきではありません。なぜなら、このことは「ERP」という一つの事象で起こったことではないからです。

「ERP」は数ある事例の一つにすぎず、似たようなことは歴史の中で何度も起こっていることで、その都度その時代において優秀だとされた「経営者」の多くがその時々で「適切だ」と考え判断した結果なのです。

つまり、戦略が先でツールは後という当たり前のことを当たり前にすることは当たり前ではないということです。

その意味で言えば、現在の「DX(デジタルトランスフォーメーション)」というものを「手段」に過ぎないことを分かって対応している経営者の割合には、このERP騒動の時と違いはあるのかどうなのか。

まさに潮のまっただ中にいる今、そんな目で見てみる必要があるように思います。

 

◆この記事をチェックした方はこれらの記事もチェックしています◆