あえて英語公用語論 #50
2014年5月26日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介
【書籍名】 あえて英語公用語論
【著者】 船橋洋一
【出版社】 文春新書
【価格】 ¥710 + 税
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「21世紀日本の構想」懇談会において英語を日本の第二公用語とする可能性について言及されたことが大きな論争に発展したことは#49の「論争・英語が公用語になる日」でご紹介したとおりですが、本書は、その懇談会の中心人物である船橋洋一氏による再反論的内容となっています。
まず、著者は真っ先に「(懇談会の提言では)公用語にせよ、とは提案していません。」とはっきり述べています。
そうではなくて、「『第二公用語とすることも視野に入ってくる』との認識の下、公用語にすべきかどうかも含めて国民的議論を起こそう、と言っているのです。その後の議論の盛り上がりからして、問題提起としては、かなりの程度成功したといえるでしょう。」という確信犯的発言をされています。
その上で、「しかし、その議論はまだまだ不十分です。」と延べています。
つまり、本書は著者としての国民的議論の深堀を目的としているということになります。そして、巻末において具体的な「英語第二公用語についての提案」を行っています。
#49の記事 でも書きましたが、反対側の論理は非常にヒステリックで感情的なものが多いように感じます。
著者もその点について、
「英語論を始めると、日本ではえてして日本語論とか、日本アイデンティティ論とか、米国ヘゲモニー論がすぐに飛び出すのですが、その前にまず、世界、中でもアジアの中での日本の位置と関係論を冷静に見据えることから議論を始める必要があります。私が恐れるのは、英語公用語論を含む英語強化論に対して、日本での議論がややもすれば防御的心理に流されていることです。」
と述べられています。つまり、冷静な議論をしましょうということです。この点についての著者の議論は、以下の言葉に凝縮されています。
「母語と違う言葉でものを考えるということは、自分の中にもっとにぎやかな、もっと緊張に満ちた思想のドラマを持ち込むことにもなります。世界の人々と対話するとき、そうした自分の中の対立しながら統一している思想で相手に接することが実り多い対話を生むことを、私は知っています。」
このことは私も常々思っていることですが、つまりは、(英語を第二公用語にすることで結果的に)英語を日本人が話せるようになることは、日本人としての柱を失ってしまうというようなことではなくむしろ、日本人としての自分たちの存在を再確認することができ、自信を持ってグローバル社会を渡っていく力を身につけることだと思います。
日本における後ろ向きな反応を生産的な行動に仕向けるということは並大抵のことではないと思われますが、この点について著者は衝撃な他国の実例を紹介しています。
それは、お隣韓国でのケースです。
韓国もかつては日本と同じように英語強化論が持ち上がるために「ハングルを守れ」という反対意見がその強化論をかき消してしまっていたようです。ですが、ある国家的経験を経て一気に英語強化に傾いて、非常に大きな成果をもたらしたといいます。(現在その成果は2000年当時と比べても格段に向上しています。)
その経験とは、あの「アジア通貨危機」です。
本当に自国の存在自体が危機に瀕したとき、その国はすべての議論を超えて必要なことを選択する(せざるを得ない)ということです。日本は、存亡の危機に立たされて初めて本当に必要なことを選択するのか、それとも危機に瀕する前に自らの意思で必要なことを選択する知恵をもつのか、国家として試されているような気がします。
しかし、その大前提として日本人の思考の基礎である日本語教育をやるべき時にやることを妨げてまで英語教育を行うということがあってはなりません。
「使える英語」を実現する「英語を使う環境」作りを続けてきたランゲッジ・ヴィレッジだからこそ、その順番の大切さを訴えておきたいと思います。
文責:代表 秋山昌広