不実な美女か貞淑な醜女か #64
2014年7月20日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介
【書籍名】 不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か
【著者】 米原万里
【出版社】 新潮文庫
【価格】 ¥520 + 税
【購入】 こちら
非常に、衝撃的なタイトルでとても語学書であるとは気づきにくいですが、「貞淑」とは原文に忠実なことで、「美女」とは訳文として整っていること、ですから本書は「貞淑な美女」すなわち、ある言語を別の言語に完璧に移し替えることが可能かという通訳の永遠のテーマに迫った良書です。
かなり前の記事で翻訳本を読むのが苦手だという話をしましたが、まさに翻訳本の翻訳が往々にして「貞淑な醜女」だということでになります。かなりの時を経て、「なるほど」と思いました。
この本書の趣旨とは少し観点が違いますが、本書で最も印象に残った部分があります。
それは、一人の通訳が仕事の依頼人によって「お茶のわびさびについて」「原子力発電について」「恐竜の絶滅について」などその都度様々な分野をカバーしなければならないという「通訳の宿命」について軽快な文章で説明してくれる部分でした。
「仕事のつど、一夜漬けのようにしてその分野の専門用語についてを頭の中に叩き込み、後はエイやっでやっつける。この対処法以外になにか特別なものなどありはしない。」と著者はいうのです。
この考えは、通訳者だけではなく、英語を使って海外とやり取りをしなければならない日本のビジネスマンすべてが参考にすべきことだと思います。
私たちランゲッジ・ヴィレッジは、「ビジネス英会話なんて存在しない」ということを常々言っています。これは、英語において基本的な語彙を駆使することができるようになれば、そのビジネスマンがカバーすべきビジネス分野の専門用語をチャチャっと頭に入れるだけで、あとはエイやっしかないということです。
著者は続いて以下のようにまとめています。
「いかなる専門分野の仕事であろうと、通訳に求められるのは、結局通訳をつとめる二つの言語をできる限り柔軟に駆使する能力なのである。各専門分野の通訳に必要とされる知識や用語はその都度身に着ければいい。しかし、柔軟に言語を駆使する能力のほうは、一朝一夕で備わるようなものではない。」
まさにわが意を得たりと思いました。
全ての日本人が「英語を学ぶ」というスタンスで英語に取り組む限り、やるべきことは現時点で自らが持っている英語の知識を「使える英語」に変えることに尽きるわけです。最初から、「ビジネス英会話」などというありもしないものを求め(あったとしても、英語を駆使できない状況でそれを求めることは、口は悪いですが「豚に真珠」状態となってしまいます。)、それをいつまでも英語ができない「言い訳」にすることから卒業しなければなりません。
とにかく「英語を使える」というところまで自らを持っていくこと、これこそが日本のビジネスマンが真っ先にやらなければならないことだということを確認する必要があります。
そのあとは、自然にそれぞれの分野ごと必要なものを「一夜漬けで」頭に入れればいいのです。しかも「英語を使える」というところまで自らを持って行けた人はそのことを当たり前と思えるようになるのです。
私自身にとってもこのマインドを再確認できる非常にいい機会を本書に与えていただいたと思います。
文責:代表 秋山昌広