小学校英語のジレンマ #234
2020年3月5日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介
【書籍名】 小学校英語のジレンマ
【著者】 寺沢拓敬
【出版社】 岩波新書
【価格】 ¥840 + 税
【購入】 こちら
この書籍紹介ブログにおいては、「小学校英語」について様々な書籍を取り上げてきましたが、いよいよ2020年4月から制度としてスタートする直前のタイミングで出版されたものです。
著者は同じくこのブログにおいて何度も著作を取り上げてきた寺沢拓敬氏です。
寺沢氏の著作にはどれもその視点の鋭さに魅力があります。
その鋭さは、本書冒頭の以下の言葉にも表れています。
「小中学生の子供を持つ保護者を対象に様々な教育改革案についての賛否を訪ねたアンケートの結果がある。その選択肢は『賛成』『反対』『よく分からない』の三つだが、その中の『小学校英語の教科化』という項目には、他の項目と比べ、『よく分からない』の割合が際立って小さいという特徴があった。社会問題であれ科学現象であれ人間関係のトラブルであれ、複雑な物事を理解するには、その現象に固有の適切な距離というものがある。ひどくもつれた糸があっても、拡大してみればほんの少しよじれている程度にしか見えないし、逆に遠すぎてはもつれていることさえ気づかない。全体と個々の絡まりあいが両方とも見える地点から眺めてこそ、問題の複雑さが理解でき、勢い、解決の糸口を見いだせる。小学校英語もこれに近いように思う。現在、小学校英語が様々な課題に直面していることはよく知られているが、その複雑さが多くの人に伝わっているとは思えないことが多い。」
私も、専門家の立場からこの問題に関して発言を続けてきましたが、一般の人のほとんどがこの問題の「本質」をつかむことなく、「賛成」「反対」のいずれかに「自分の意見」として票を投じているのを見て、同じようなことを思ってきました。
この問題は非常に「複雑」であるため、常日頃からこの問題に関心を寄せ、十分な情報を得ているのでなければ、「よく分からない」というところからスタートし、この問題の本質を知る努力をした上で、「賛成」「反対」いずれかを「自分の意見」として表明をするべき対象だと思います。
しかしながら、「よく分からない」(ところからスタートする)人はほとんどいないのが現実です。
私のこんな漠然とした気持ちを代弁してくれた本書は、本当はこの問題について「よく分からない」人たちにそのきっかけをつかませてくれることを確信しています。