外国語を学ぶための言語学の考え方 #322
2024年9月6日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介
【書籍名】 外国語を学ぶための言語学の考え方
【著者】 黒田 龍之助
【出版社】 中公新書
【価格】 ¥760+税
【購入】 こちら
#55「語学はやり直せる」と#57「僕たちの英語」の著者である黒田龍之助氏の著作です。
この著者がどのような方かということについては、上記の二冊の紹介文を読んでいただければすぐに分かります。
要は、英語に限定されることのない圧倒的な「多言語学習の達人(オタク)」です。
寝ても覚めても「外国語学習が好き」な著者が本書の冒頭で、外国語を学ぶ上で非常に重要な「見方」を示されていたので、以下にそのまま引用させていただきます。
「常日頃より考えているのだが、外国語学習は料理に似ている。料理に必要なものと言えば食材と調理法。言語の場合はそれが語彙と文法に相当する。おいしい料理は、豊富な食材と巧みな調理法の両方がそろって初めて出来上がる。外国語を操るときも同様で、豊富な語彙と巧みな文法が一つとなった時、豊かな表現が生まれるのである。ということで、外国語学習者は語彙と文法の両方を追い求めなければならない。語彙の足りない外国語は、食材が限られている料理のようなもの。目玉焼き、オムレツ、ゆで卵、茶わん蒸しなど、どんなに調理法を変えたところで、卵料理ばかりでは飽きてしまう。一方で、いくら語彙が豊富であっても文法がお粗末な外国語は、いろいろな種類の野菜を使っているけど結局はどれもサラダじゃん、といったところか。つまり、両方をバランスよく身に着けることが大切なんだね。あと、料理は食材と調理法に加え、スパイスが絶妙に組み合わされた時、最高においしくなる。言語学はまさにそのスパイスだと言える。(一部加筆修正)」
もう、これだけで「本書に巡り会えたことに感謝したい」と思わせられる、それほど外国語学習に対する理想的な「見方」を体感的に理解させてくれる一節でした。
本書において著者は、この「外国語学習においてのスパイス」として機能する言語学を「言語を研究対象とした学問」としての言語学と明確に区別をしていています。
というのも、著者は、「言語学」というものは具体的な外国語をいくつか学んで、そこから文学や歴史に興味が広がり、そうした文化的背景を基礎として言語の構造を研究するという順序でアプローチするべきものであるいう考え方を大切にされています。
その考えは、彼の今までの著作活動の中で「言語学」を紹介するたびに、そういった文化的背景とは無関係に「言語を研究対象とした学問」である言語学に本人の意図に反して誘導してしまったことへの反省から来ているようです。
そんなこともあって、本書の「はじめに」は次のような言葉で締めくくられています。
「料理もことばも人間が生活するうえで欠かせない。それぞれプロもいるが、プロでなくても人々は何かを食べ、何かを話す。そういう普通の人のために、『ことばのスパイス』としての言語学についてあれこれ盛沢山に、とはいえクドくならないよう隠し味程度に抑えながら、話していこう。」
まさに、外国語学習を生活に立脚した「リアル」なものとする観点に立った著者の最高に「おいしい」一冊です。