わが国の英語学100年 #68
2014年8月7日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介
【書籍名】 わが国の英語学100年
【著者】 田島松二
【出版社】 南雲堂
【価格】 ¥2,500 + 税
【購入】 こちら
本書は、おそらく「英語学」という専門分野の関係者に向けて書かれた本だと思います。
そのため、非常に専門的で一般の人には少し退屈と思われるかもしれません。
ただ、本書を読む中で気になった点があります。それは、英語学の世界の最近の風潮として古典的素養、すなわち古英語、中英語、シェイクスピアなど初期近代英語を代表する作家たちの著作さえ研究者に読まれることがなくなってきてしまったと著者が嘆いている点です。次の言葉が非常に印象的でした。
「英語力もおぼつかない研究者による『英語学』研究にいかほどの意味があるのだろうか」
一般英語教育において、文法や語彙の基礎を叩き込むという当たり前のことが軽視され、コミュニケーション重視の名のもとに、基本無視の即席会話が幅を利かせてしまうようになって来ています。
それに呼応するように、「英語学」研究の世界でも古典研究の過去の蓄積が軽視され、アメリカを中心に成立した認知言語学という「新言語学」がすべてのごとくの風潮となってしまったとのことです。
私には本書を読んでも「英語学」という学問が具体的なイメージとして浮かぶまでに至らなかったのですが、この分野に見られる基本を軽視する風潮に対して警鐘を鳴らす著者の気持ちには共感することができました。
情報過多の現代において小手先の個別スキルに飛びついても、その対象は時間の経過とともにめまぐるしく変転するため結局は体系的な理解に至らない。
この問題は、現代の様々な分野において真剣に議論されるべきものだと思います。
文責:代表 秋山昌広