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日本人はなぜ英語ができないか #51

2014年5月31日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介

日本人はなぜ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【書籍名】 日本人はなぜ英語ができないか

【著者】  鈴木孝夫

【出版社】 岩波新書

【価格】  ¥660 + 税

【購入】    こちら

このようにはっきりと書籍のタイトルになっても違和感がないほど定説になってしまっている日本人の英語コンプレックスについて、その背景にある日本人に独特の英語(外国語)との付き合い方とその現状の対処法にまで言及されつつ論じた内容になっています。

日本人の英語コンプレックスは言い換えれば英語に対する「あこがれ」でもあります。しかし、実はこのような感情を外国語に対して持つ民族は世界的に稀だといいます。

世界は、英語をはじめとする言語大国とそれらの国々による植民地としての経験をもつ国の二つに大きくわけられ、前者の国民はそもそも当然にして「あこがれ」など持つ必要はないですし、後者はその経験から「あこがれ」どころか「嫌悪感」を持つことが多くなります。つまり、その言語は押し付けられた支配者の言語として恨み呪う感情を持つことが普通です。

日本人は、その歴史上、言語大国(ごく短期間はあったが)にも植民地にもなったことがないという前提のもと、およそ外国語というものに対して、不信の念や嫌悪の情といった否定的な感情を持っていない非常に珍しい民族だと言えるのです。

しかも、島国として外界から地理的に隔絶されている中で、外国語は、外国の文化の中から常に自らの文化にない「優れた」ものを導入するためのありがたい道具であったという背景から、我々の外国語観が「あこがれ」の感情にまで高められることとなったと考えられます。

しかし、現在の日本を取り巻く現状は大きく変わり、日本の世界的プレゼンスは、かつてのように外国の文化の後追いだけでは維持できないレベルにまできています。そうなると、日本人としての日本人に独特の英語(外国語)との付き合い方も変えていかなければなりません。

つまり、英語を外国の文化の後追いの道具としてではなく、日本にて創造された日本独自の価値を発信する道具として英語を活用していかなければ日本の世界的プレゼンスは維持できなくなっているのです。そして、このことを実現するためにはいわゆる「英会話」レベルに収まらない高いレベルが要求されます。

このレベルの実現ためには、現在のような義務教育で平均的に英語を教えるような形ではなく、いわゆるエリート教育によって少数精鋭を育てることが現実的な対処法であると著者は説いています。

著者の現状分析については私はまったく異論はありません。そのとおりだと思います。しかし、私は現実的な対処法として「エリート」に限定することには「?」を提起したいと思います。

この本が書かれたのが1999年ですので、それから14年近い時間が流れ、世界を取り巻く状況も大きく変わってきたこともあります。そして、日本人が日本語だけでサバイバルできる領域が加速度的に狭くなっていています。そして、この変化のスピードは落ち着くことがなく、どこまでも加速すると思います。

このような状況の中で日本がとりうる国家戦略としては、もはや一部のエリートに限定することではなく、日本国民全体に対して英語でサバイバルできる「実践的英語力」を身につけさせる仕組みを作るべきだし、私はそれは現実的に可能だと考えています。

常に言っていることですが、日本人はすでに英語の基礎を中学三年までに習得する仕組みを莫大なコストと時間をかけて構築済みです。その基礎の上にあと少しだけ「使う」環境を上乗せするだけで「実践的英語力」を身につけることができることを確信しているからです。

もちろん、このことで日本国民全体が「精鋭」になることは難しいとは思います。しかし、少なくともこれからのグローバル社会でのチャンスをものにできる最低限の足がかりを日本国民全体に対して与えることは十分現実的なことだと思っています。

#49の「論争・英語が公用語になる日」において船橋氏との対話の中でも、著者は現状認識においては船橋氏とまったく同じ立場をとってらっしゃいましたが、やはりこの教育をカバーする範囲についての議論については両者とも最後まで持論を譲らなかったことが印象的でした。

あれから14年以上がたった今、この点についての著者の意見に変化があるのかどうかに非常に興味があります。

 

文責:代表 秋山昌広

 

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