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英語の発想 #74

2014年9月3日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介

英語の発想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【書籍名】 英語の発想

【著者】  安西徹雄

【出版社】 ちくま学芸文庫

【価格】  ¥800 + 税

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本書の主題は、英語と日本語の発想の根本的な違いを明らかにして分析することです。

その違いとは、英語は名詞中心の構造をとっており、日本語は動詞中心の構造をとっていること、言い換えると、英語流のものの捉え方は客体的な<もの>を焦点に組み立てられるのに対し、日本語流のものの捉え方は「状態」なり、「出来事」なりを状況に即して、つまり<こと>として掬い取ろうとしている点にあると言います。

以下の二つの文を比べると分かりやすいと思います。

A「この事実の認識が問題の解決に貢献する」

B「これが分かれば問題はずっと解決しやすくなる」

明らかにAが英語的で、Bが日本語的です。

その証拠に、Aの文章を日本語として聞くと、なにか心に入ってきにくい感じがしますが、Aの文章を英訳しようとするとThe recognition of this fact contributes to solving problems. と比較的簡単にできます。

それに対して、Bの文は日本語として自然に入ってきますが、逆に英訳しようとすると、どこから手を付けていいのか分かりません。

もう少し、踏み込んで比べることで、著者は以下のような指摘をしています。

「英語は状況を捉えるのに、<もの>の動作主性に注目して、因果律的に解析し、概念化してゆく傾向が強いのに対して、日本語は状況を丸ごと<こと>として捉え、その<こと>と人間のかかわり方を人間の視点に密着して捉える傾向が強い。」

これが、以前、この記事 で触れた「翻訳文の読みにくさ」の元凶なのだとはっきりと理屈で認識できた気がします。英文の原書は<もの>中心で書かれています。それを、日本語に翻訳するということは、構造を<こと>中心に変える必要が出てくるのですが、すべてを入れ替えるということは不可能ですので、どうしても、流れがしっくりこなくなってしまうのです。

すべてを変えることは、どんなに優秀な翻訳家でも不可能なのでしょうか。おそらく無理だと思います。なぜならそれは、バランスの問題だからです。このことは、以前の「不実な美女か、貞淑なブスか」の記事で詳しく取り扱っていますが、「美女」であること、すなわち、訳文として整っていることを求めるならば、「貞淑」であること、すなわち、原文に忠実なことを犠牲にしなければならないからです。

「貞淑な美女」な翻訳を可能にすること、すなわち、ある言語を別の言語に完璧に移し替えることが可能かという通訳の永遠のテーマの根幹の部分を非常に論理的に解説した良書だと思いました。

是非、ご一緒にお読みいただくことをお勧めします。

 

文責:代表 秋山昌広

 

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