日本人と英語

日本語を救った日本語ワープロ発明

2018年7月4日 CATEGORY - 日本人と英語

前々回、前回と「日本語の科学が世界を変える」からテーマをいただいて書く中で、いかに日本語という言語で科学に向き合うことに価値があるのかということについて議論してきました。

最終回の今回は、そのような日本語が今日まで生き残ることができた一つの理由として意外にも「日本語ワープロ発明」があったというエピソードをご紹介したいと思います。

本書のテーマを貫いている考え方は、日本人が日本語で高いレベルでものを考えることができているということがどれほど日本人の経済的・精神的裕福さの源泉となっているかということです。

にもかかわらず、明治維新以来何度も日本人はその裕福さの源泉である日本語を自ら放棄しようとしたり、占領軍によって半ば強制的に放棄させられそうになるなどしてきました。

本ブログでもご紹介した初代文部大臣森有礼の英語国語化論、小説家志賀直哉によるフランス語国語化論、そして、GHQによる漢字廃止計画といった具合にです。

ですが、日本人は漢字、ひらがな・カタカナに加えてローマ字としてアルファベットまでも使用文字に含めるなどしながらなんとか現在まで日本語を守り通してきました。

上記で述べた三つの危機の中で、最も現実的な危機だったのは三つ目のGHQによる漢字廃止計画だったように思います。

それ以外の二つは言語自体を変えてしまうというかなりハードルが高いものだったのに対して、表記をアルファベットに変えてしまうという変化の実行のハードルはそれほど高いものではなかったと思うからです。

しかし、その表記方法を変えるということの本当の恐ろしさを考えると、表記のみさえも変えなかったことは日本人はどれだけ幸運だったかということを私たちは理解しなければなりません。

このことに関連して、本書では韓国と北朝鮮が漢字を放棄して、ハングルという表音文字だけを文字としてしまったことの欠点について紹介しています。

「ハングルは表音文字なので元の漢字熟語の読みが同じであればみんな同じ表記となってしまう。『新風』『神風』『信風』これらすべてが、あたかも『シンプウ』としてしまうことでどれがどれだか分からないということが山ほどあるらしい。ましてや、微妙なニュアンスの伝達など望むべくもないと思う。しかも、漢字文化をほぼ捨ててしまったため、自国の歴史書や古文書を読める人がほとんどいなくなってしまった。歴史が消えたのだ。もちろん、言葉を厳密に定義できない状況では、母国語によるまともな科学などできようはずがない。」

なるほど、日本人が漢字、ひらがな・カタカナを自在に使用できていることのメリットがこれによって痛いほど理解できます。

しかし現代のようにワープロ打ちが当たり前の時代では、それらを全部キーボードに載せることが不可能である以上、文字の電子化ということを考えると、漢字文化圏でのワープロ導入は非常にデメリットの大きいものだったはずです。

これを解決したのが、1978年に東芝の森健一博士によって開発された「日本語ワードプロセッサー」です。

ローマ字で入力し、同音異義語を選択することでこの問題を解決したのです。しかも、この技術は中国語にも応用されただけでなく、漢字以外の非アルファベット圏の様々な言語の電子化に流用されて行きました。

つまり、森博士が「日本語ワードプロセッサー」を開発するまでは、世界の文字の電子化はアルファベットでしかありえなかったということなのです。

このことによって、日本人が日本語を使用し続けることによるデメリットが一切なくなり、メリットだけを享受することができるようになりました。

世界において西欧語以外で「科学」ができる言語としては日本語しかない(中国語や韓国語については日本製の熟語を逆輸入したという意味で)という事実の実現を、日本人は自らの努力で成し遂げたということを知るべきです。

そうすれば、私たちの日本語に対する眼差しは全く変わってくるはずだからです。

 

 

 

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