日本人と英語

母語と第二言語の大きな違い

2017年2月15日 CATEGORY - 日本人と英語

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先日、「英語学習は早いほど良いのか」を紹介した書籍紹介ブログの記事の中で、「なかなか、最終的な主張が異なる人の本を紹介するのも抵抗があるものですが、本書はそれを乗り越えてお勧めできる一冊です。」と書きました。

実際、本書で見られる著者の「言語学習に関する年齢と効果」という分野に対する姿勢とその知見は非常に素晴らしいものだったので、複数回にわたって、その知見についてご紹介したいと思います。

今回は、「言語習得」という分野を画一的にとらえるのではなく、「母語」と「第二言語」の間にある大きな違いを認識しながらこの議論を進める重要性について考えてみたいと思います。

本書はまず、言語習得の「臨界期説」についての知見を整理しています。

私は、言語習得の「臨界期説」については、このブログでも何度もそれを否定する意見を述べてきました。

もしこの臨界期説が成立してしまえば、中学生以上の日本人に英語教育サービスを提供している私たちのビジネスが成り立たなくなってしまいます。

そして、実際に私たちのサービスは、中年以上の大人の方の英語を実際に仕事で活用できるまでに上達させることを日常的に実現しています。

しかし、著者はこの「臨界期説」を完全には否定せず、「母語」と「第二言語」を分けて考え、母語については「臨界期説」の適用をある程度容認し、「第二言語」については、否定するような考えを紹介されています。

この考えの前提には、理論言語学の代表格チョムスキーの「普遍文法」という考え方があります。

これは、人間には生得的に言語を習得する特殊なプログラムが備わっていて、有限の言語単位を基に、新しい文を無限に想像したり、理解することを可能にする生まれつきの文法能力を持っているとする仮説です。

ただ、この仮説を支持する学者の中でも、この普遍文法にアクセスできるのは、母語習得の時だけだと考える者と、第二言語の時にもできると考える者で意見が分かれているようです。

その中で、本書では、「母語の習得」という場面においては、子供の時に言語的な刺激を全く受けることなく育つという壮絶な環境に身を置いた人間が、その後にどんなに努力しても、最終的に言葉を身に付けることは難しいという、「臨界期説」を認めざるを得ない事例が多く紹介されています。

ですから、「普遍文法にアクセスできるのは、母語習得の時だけだ」という考えと、「普遍文法へのアクセスには、臨界期が存在する」という考えはセットと捉えられると思いました。

また同時に、普遍文法にアクセスして習得した母語だけが、自然な形での使用が可能となるという考えも成り立ちそうです。

そして、一旦「普遍文法」にアクセスして母語を身に付けると、その母語がその人間の「思考の基礎」となり、第二言語の習得時には、「普遍文法」へのアクセス権限はなくなり、その代わりに母語による「思考の基礎」を利用してその言語を習得するので、いつから始めてもその言語をある程度までは習得できるので、「臨界期説」の議論とは無関係ということになります。

逆に、「普遍文法」へのアクセスではなく、「思考」という道具を介しての言語使用なので、どうしても自然さでは、劣ってしまうという考えも成り立つのではないでしょうか。

私は、この考えの流れは非常にスムーズだと思います。そして、自分自身の感覚にとても合う感じがします。

これであれば、母語の使用時の「無意識にスムーズに話す感覚」と外国語の使用時の「頭を使って話す感覚」の違いをもっとも的確に説明すると思うからです。

そうなってくると、母語習得時ならば普遍文法にアクセスでき、スムーズな習得が可能となるのであれば、そのタイミングで二つの言語を同時に学習させれば、どちらも「無意識にスムーズに話す感覚」を得られるのではないかという考えも出てきそうです。

しかし、そのような特殊な環境を長期間維持できる場合にのみ可能なことであって、一般的にはその維持は不可能です。そして、その維持が困難な環境においてそれを強行しようとすれば、母語による思考の基礎の構築に失敗する、もしくは悪影響を及ぼすことになってしまいます。

ですから、母語習得に「臨界期説」が適用できてしまうからこそ、その母語習得に少しでも悪影響を及ぼす危険のあることは避けるべきです。

母語による思考の基礎の構築がなされなければ、当然にしてその後の第二言語以降の習得などありえなくなるわけであり、それは「臨界期」の存在によって、取り返しのつかないこととなってしまいます。

それほど、母語と第二言語には大きな違いがあるのです。

ですから、「赤ちゃんのように英語を学ぶべき」というよく聞くフレーズには十分に注意してください。

 

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