日本人と英語

なぜhotが辛くなったのか?

2026年2月15日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログでご紹介した「英単語の世界#357」からテーマをいただいて書いていますが、第三回目のテーマは「hotの意味の拡大」についてです。

人間の五感を表す語は、ある感覚から他の感覚へと転用される例がよく見られます。

例えば、赤・だいだい色・黄色などを指す【warm colors(暖色)】や【dull colors(薄ぼんやりした色)】は、本来触覚を表すwarmやdullがcolorという視覚に関する語を形容していて、触覚から視覚への転用が起こっています。

このようにある感覚を表す語が、別の感覚に比喩的に転用される現象を「共感覚(synaesthesia)」と呼びます。

warmの他にも、sharp cheese(味・においのきついチーズ)は触覚から味覚・嗅覚へ、sweet voice(甘い声)は味覚から聴覚へ、clear voice(澄んだ声)は視覚から聴覚へ、loud color(派手な色)は聴覚から視覚へでも見られます。

ただし、この共感覚による比喩表現は、異なる感覚器官で全く自由に起こるわけではなく、どのような感覚がどのような別の感覚へ転用されるかに関しては、以下のような方向性が見られます。

触覚は、味覚・嗅覚、視覚、聴覚に転用されますが、逆方向の転用、例えば、sour touch(酸っぱい手触り)やnoisy touch(騒々しい手触り)などは通常あり得ません。

また、味覚は、嗅覚(sweet smell)、聴覚(sweet music)、視覚(sweet sight)を表すのに用いられますが、逆方向は稀です。

これらをまとめると、「触覚」が感覚間の転用の底辺にあり、味覚、嗅覚そして視覚と聴覚という具合に段階を追ってだんだん他への転用がされにくくなっていきます。

これは、触覚という感覚が、何かを直接手で触れたりすることで得られる情報なので、五感の中でも最も直接的な感覚である一方で、味覚や嗅覚、特に段階の頂点にある視覚と聴覚は、外界の物理的な刺激をそのまま感受しているのではなく、脳がかなり込み入った操作・選択の過程を経て、視・聴覚情報を作り出しているともいえるので、この転用の方向性は、単純で直接的な感覚表現を使って、より抽象度の高い複雑な感覚を比喩的に表そうとするものだという理解ができます。

そこで最後に、タイトルにあるhotの表現の転用の様子を本書より引用します。

「hotという形容詞は、触覚、味覚、嗅覚、視覚、聴覚などに関わる意味を持っていますが、『暑い・熱い』という触覚の意味が最も早い段階(古英語期)から見られ、そこから味覚、嗅覚、視覚、聴覚へ転用されました。つまり、hotは13世紀初めに味覚に転用され、『辛い』も意味するようになり、16世紀末には嗅覚の意味(狩猟用語として臭いの後が残っているの意)を吸収し、17世紀になると視覚の意味(見た目がどぎついの意)、さらに20世紀には、聴覚の意味(ジャズなど演奏が巧みなの意)に転用されました。」