「企業が求める英語力」の企業とは誰か
2018年1月21日 CATEGORY - 日本人と英語
以前に書籍紹介ブログにてご紹介した「企業が求める英語力」よりテーマをいただき議論していきたいと思います。
その記事において、本書は「7000名を超える膨大なインタビューの結果によってその輪郭をなんとか導き出そうとしたもの」だと言いましたが、今回はそのインタビュー結果について詳しく見てみたいと思います。
本書におけるインタビュー結果の分析が興味深いのは、そのインタビューにおける自由記述データとTOEICスコアとの関係を用いて統計分析を行っている点です。
つまり、書かれた意見と英語の達成度合いとが、紐づけられているという点です。
具体的にキーワードに関する回答者の記述をその結果からいくつか引用してみます。(キーワード:「日常会話」「論理的思考」)
(低グループTOEIC400~500)
・義務教育で英語を勉強しても日常会話すら話せない。
・ネイティブの教師から文法からではなく日常会話から学べるような授業体系にするべき。
(中グループTOEIC600~700)
・英語を早期から学ばせるよりは、その時間を母国語である日本語の習得、論理的な文章構成能力・スピーチ能力の向上にあてたほうが結果として英語習得には役立つと考える。
(高グループTOEIC800~900)
・日本の義務教育で日常会話の基礎が十分身に付けられれば、日本人の国際的なコミュニケーション能力のレベルが上がるのではないかと思う。
・コミュニケーションは「語学」ではなく「思考能力」「論理力」「決断力」等が必要です。
これを見てみると、英語の達成度合いが低い方が、「日常会話」重視で、とにかく即席的なコミュニケーションにつながるような英語を身に付けたいという希望が強いのに対して、達成度合いが高まるにしたがって、英語の理解を日本語での論理性に求めるような傾向が強くなっています。
このように見てみると、昨今の日常会話重視、オーラルコミュニケーション重視の学校教育の方向性は実は、本来の「企業が求める英語力」を反映していないのではないかと思えてしまいます。
なぜなら、現在の学校教育の方向性は明らかに(低グループTOEIC400~500)の意見をもとにしているからです。
絶対的なボリュームで言えば、日本においては低グループの方が高グループよりも圧倒的に多く、その意見の圧力は強いはずです。
ですから、数少ない高グループの意見よりも数の多い低グループの意見を聞くという姿勢は一見もっともな判断に見えます。
しかし、考えてみれば、低グループと高グループとでは、後者の意見の方が尊重されるべきことが明らかです。
TOEICスコアだけで英語力を判断することは危険だとは何度もこのブログでもお伝えしていることですが、少なくとも低グループよりも高グループの方が、学習時間・経験は長いはずで、その分様々な方法も試した結果、高得点を得ているわけですから。
そのため、数は圧倒的に少なくても、高グループの意見の方が、より本来の「企業が求める英語力」に近いことは間違いないですし、また近くてしかるべきです。
今回、私が本書の調査を「核心に迫ったもの」と評価したのは、書かれた意見と英語の達成度合いとが、紐づけられたことによって、このあるべき視点を明らかにしたと思ったからです。
ただ、それでも「文法」という要素については、(高グループTOEIC800~900)の中でも意見が一枚岩ではないということも明らかにされていますのでその点について、次回見ていきたいと思います。