それでも文法はありきです
2018年1月24日 CATEGORY - 日本人と英語
前回に引き続き「企業が求める英語力」からテーマをいただきますが、今回は「文法」の必要性についての議論です。
前回では、企業が求める英語力の企業の声とは、声の大きい【低グループTOEIC400~500】の声ではなく、声が小さくても経験のある【高グループTOEIC800~900】の声であるべきだという話をしました。
しかし、その【高グループTOEIC800~900】の中でも「文法」については意見が分かれるという点について議論を今回の記事に譲りました。
その意見の分かれ方を見てみますと、三つに大別できます。
一つ目は、文法重視ではコミュニケーション能力は身につかないとする「文法偏重批判」。二つ目は、文法の重要性は認めた上で、英語力の他の側面を充実させるべきだとする「文法学習の消極的評価」。そして三つ目が、国際社会で通用する英語力を獲得するには文法習得が重要だとする「文法学習の積極的評価」です。
具体的にそれぞれの意見を見てみましょう。
第一の「文法偏重批判」の意見。
・英語をマスターするためには英文法ではなく英会話を小学生から学べるような制度・環境を整える必要があると思います。
・学校での英語教育において、文法中心の方針のままでは国際社会に順応していくことができない。細かい和訳や文法用語を教え込むよりも会話能力をあげるための教育が必要。
第二の「文法学習の消極的評価」の意見。
・国際ビジネスで通用するような英語力を身に付けることを教育に求めるのであれば、文法強化の現行制度は維持した上で、話す、聞くことになれるようなカリキュラムを追加する必要がある。
・文法は英語の日常会話表現を理解し、話せるようになりたい日本人には必要だが、話せるための英文法力をつける授業が小・中・高でなされれば、一般的に日本人の英語に関する基礎知識が上がるように思う。
第三の「文法学習の積極的評価」の意見。
・中学高校と習ってきた英文法に対する批判があるが、私の場合、感謝したいくらい役立っている。英語を中学から習った平均的日本人の場合、英文法は必須である。
・英文法は嫌われがちだが、中学・高校の英文法を抑えていれば、日常・ビジネス上において必要なことは伝えられるようになる。あとは語彙力を高めること。
私は、それぞれの意見を通してみていく中で、これらの意見がなぜ同じ【高グループTOEIC800~900】の中でこのように分かれるのかについてなんとなくその理由が分かったような気がします。
それは、【高グループTOEIC800~900】と言えども、その中にも様々な事情を抱えた人がいるということです。
その異なった事情とは、まずケースAとして、もともと小さいころから英語環境で育った結果、経験的に英語知識を身に付けTOEIC800~900に至ったケースです。
そして、ケースBとして、英語を学校教育で習い始めて真剣に勉強した結果、TOEIC800~900に到達したが、会話の経験がないために使える英語には至っていないケース。
そして、最後にケースCとして、同じく英語を学校教育で習い始めて真剣に勉強した後、何らかの形で英語を使う環境を得て、「使える英語」を身に付けながらTOEIC800~900に到達したケースです。
おそらく、第一の「文法偏重批判」にはケースAおよびケースBがあてはまり、第二・第三の「文法を評価」には、ケースCがすっぽり当てはまっているのではないかと思うのです。
これはどういうことかというと、本書にあった以下の記述を引用させていただいて説明したいと思います。
「学校教育における文法学習が言語の運用につながるような形で教えられなかったことが文法偏重批判につながったのではないかと考えられる。おそらく、学習対象である文法項目を含む文を文脈から切り離した形で提示し、それを和訳させたり、文法用語を詳細に解説したりする授業を受けてきたのではないか。言語知識を与えた後、その知識を使って自分の考えや意見を述べたり、学習者同士でやり取りをしたりする言語活動が十分に行われなかったのだろう。」
これは、本来、「文法」から「会話」へという段階法的に取り扱われるべきものが、「文法」と「会話」を切り離し、「文法」か「会話」という二分法で考えられてしまっているということによって、「文法」の存在が誤解を受けてしまっているということを意味しているのだと思います。
つまり、実態は「文法」しかやらないから「会話」ができないのであって、文法をやらないことで会話ができるようになるということでは決してないということです。
本来あるべき「文法」から「会話」へという段階法的な教え方を実行できるのは、ケースCの英語を学校教育で習い始めて真剣に勉強した上で、何らかの形で英語を使う環境を得て、使える英語を身に付けたことでTOEIC800~900に到達した人なのだと思います。
恐縮ですが、私もその一人だと自負しているのですが、このような人々が、いかに「文法」を「会話」に結びつけ「英語を使う」環境を実現するのか、このことが、本来的な意味での「企業が求める英語力」を実現するための唯一の方程式だと改めて確認しました。