日本人と英語

英語には文法がなかった

2016年3月11日 CATEGORY - 日本人と英語

grammar            

 

 

 

 

 

前回に引き続いて、「英文法を知ってますか」について。

前回、かつての英語の脆弱性のうち、一つ目の「語彙の貧しさ」について書きましたので、今回は二つ目の「文法の未整理」について考えてみたいと思います。

前回の記事  でみたように「語彙の豊饒化」によって自国語に自信を持ちはじめたイギリス人でしたが、本当の意味でラテン語や先進国語であるフランス語などに肩を並べるためには、それだけでは不十分でした。

なぜなら、英語には文法がなかったからです。ここでいう「文法がない」というのは、具体的には「文法書がない」ということです。

そこで、1586年にブロカーという教師が歴史上初めて英文法書を書くことになりました。ただ、ブロカーはすでにあった英語で書かれたラテン語の文法書を下敷きにしてこの英文法書を作ったので、ここでもやはりラテン語から完全に独立して成立した「英文法」だとは言えませんでした。

ここでのブロカーの文法書作成の動機は当時の「英語は語彙は豊かになったとは言え、文法のない言語だ」との批判に対しての「英語も規則性のある言語である」と証明することです。

当時は、ラテン語が「規則性のある言語」の代表であったため、英文法がいかにラテン語の文法に近いかを示すことで、それが可能となると考えられたのです。

しかし、本来別個の言語である英語をラテン語文法に盲目的に当てはめるだけでは当然問題が生じてしまいます。英語という言語に「文法」を与えるプロセスはそんなところから始まったわけです。

そして、17世紀になるとかなり多くの英文法書が出されてきます。それに従って、今まではラテン語の文法を当てはめただけだったものが、徐々に、英語という自らの言語を「観察」し、その中から「普遍性」を抽出し「規範」を導く中でその優秀さにイギリス人自らが気が付くようになりました。

それは、17世紀最高の英文法書を作ったと言われるクーパーが次の英語の特徴と利点を5つあげていることからも分かります。

(1)語彙が豊かであること

(2)語彙が意義深いこと

(3)明晰であること

(4)優美であること

(5)習得が容易であること

最初の二つに関しては、ラテン語からの借入を経て、実現した語彙の豊饒化によるものですが、後の三つに関しては、その文法のシンプルさによるものだと考えられます。

英語は語尾がいちいち変化するラテン語系の言葉とは違い、助動詞や前置詞を使用することで、常に安定した成文構造を維持することができる点がこのような利点につながっています。

私が主宰する「中三文法を二泊三日で血肉にする合宿」を実現できるのもまさにこの利点のおかげです。

それまで英語は「語彙」「文法」の両面から、ラテン語の力を借りてその正当性を何とか保っていたわけですが、こうなってくると、むしろその両面ともに本家を超えて優越性を持つようになり、イギリス人自らもそのことを認識することになっていったのだと思います。

このようにして、英語という言語は、イギリス人にとって正真正銘の「誇るべき母国語」となっていったのです。

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