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日本語の秘密

2026年4月8日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

前回のヒコロヒーさんに引き続き、「生きる言葉」の著者である歌人の俵万智さんが、言葉に対する非常に鋭い感性を持たれている方として本書の中で紹介されていた新進気鋭の言語学者である川原繁人慶応大学教授の本を何か一冊読んでみようと思い「日本語の秘密」という新書を早速購入しました。

読み始めてみると、俵さん、俵さんの本の中で取り上げられていたラッパーMummy-Dさん、声優として有名な山寺宏一さん、そして言語学者の川添愛さんの合計5名で「言葉の様々な側面」について対談形式で語った内容を一冊にしたものでした。

さすが言葉と常に向き合ってらっしゃる5名の対談は本当に興味深いものでした。

その中でもっとも興味深かった対談から今回のネタを引き出そうとしましたが、やはりここでも「俵万智」さんとの対談を選んでしまいました。

以下に、その中でも最も興味深かった部分を以下に引用します。

(川原教授が子育てに奮闘する父親として育児や子供の言語発達のリアルな事情を扱った本を出版されたことに関連して)

川原「幼児語の世界はこちらが驚くほどに豊かで発見に満ち溢れています。幼児語の特徴の一つとして、『ワンワン』『ブーブー』などの『繰り返し言葉』が挙げられます。大人が使っている『犬』という言葉はその対象としている動物の特徴とは関係がない。これを音と意味が『恣意的』に結び付いていると言います。でも『ワンワン』はワンワンと鳴く動物だから、これは理にかなっている言語戦略です。赤ちゃんは何に対してどんな名前がついているか全く分からない状態でスタートするわけで、そんな赤ちゃんには、音と対象の特徴がつながった単語の方が習得しやすいんです。ただ、音と意味のつながりだけを重視していたら、音の数には限りがありますから現実に使える語彙が限定されてしまいます。それに『正義』や『愛』のような抽象的な概念は、そもそも音の響きだけで表すことも難しい。だから大人の語彙では、音と意味のつながりは基本的に恣意的になります。そういう意味では、言葉は二層構造になっていて、まずは音と意味のつながりが強い基本語彙を覚えてから、音と意味のつながりが薄い大人の語彙を覚えていく。こうやって考えると、言語というのはうまくできていますよね。」

俵「子育てをしている方の中には、『ワンワン』と教えると『犬』という単語を覚える時期が遅れるという意見もありますが、その心配は必要ないんですね。」

川原「成長していけば自然と『犬』という単語も覚えられます。それよりも、『ワンワン』と『犬』をちゃんと使い両方使ってあげる。そうすると子供も、どの場面で『ワンワン』を使うべきで、どの場面で『犬』を使うべきかが理解できるようになる。下の娘は4歳ですが、自分より小さい子供には『ワンワン』、大人と話すときは『犬』という風に使い分けています。そういう能力を発達させる機会を奪ってしまってはいけない。」

実は私は本書を読むまで、どちらかと言えば「最初から大人の語彙を教えるべき」という意見でした。

その理由としては、俵さんの指摘する「大人の語彙を覚える時期が遅れる」からではなく、どうせ最終的に大人の語彙も教えるのであれば、最初から教えてあげたほうが赤ちゃんの側としても「省エネ」になるし、混乱を生じさせるリスクもないからと思っていたからです(実際には私以外の家族が全員『ワンワン』派だったためにそれは全く機能しませんでしたが(笑))。

ただ、上記のお二人のやり取りを見たときに、私は完全に考えを改める必要性があると確信せざるを得ませんでした。

私はもともと、人間の成長プロセスにおける言語習得は、「自然体で身につけられるようでなければならない」という信念を持ち続けてきたという自負があり、だからこそ「生きる言葉」の記事の中でも以下のように書いたのです。

「外国語の習得、特に日本のような国内にバイリンガル環境が全くないような前提における外国語の習得については、母語における『抽象的』概念の獲得が完了した12歳以上、すなわち中学入学のタイミングこそが、その学習を効率的・効果的に行うためには最良のタイミングであるということが良くわかるはずです。」

にもかかわらず、幼児語に関する私の「最初から大人の語彙を教えるべき」という意見はその「自然体で身につけられるようでなければならない」という信念とは完全に対立するものであったことに気づいてしまったのでした。

そして、それは言語習得のみならず、そこから派生する人間と人間の関係性を理解する機会を失いかねないというより重大な問題にもつながるものだということにも。

結果的に、私以外の家族が全員『ワンワン』派だったためにうちの子育てに関しては全く機能しなかったことが救いとなりました(笑)。

何か一冊と思って本書を読み始めた本書でしたが、このような大発見(大反省)もあって、あまりにも川原教授の学問的切り口が気に入ってしまいましてご著書を追加であと三冊まとめ買いしましたので今後一冊ずつご紹介できればと考えています。

 

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