代表ブログ

社会は静かにあなたを呪う

2025年11月19日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

社会は静かにあなたを呪う」というタイトルに、このおどろおどろしい装丁からすると、何かオカルト関係なのではないかと思われそうですが、実にまっとうな社会科学の知見に関する本の紹介です。

本書でいう「呪い」とは、普段の生活の中で「無意識のうちに他者の意見や価値観を取り込み(取り込まされ)、それによって人生に絶望を覚えたり、言葉にできない生きづらさを感じていしまう」ことを指しています。

このような意味における「呪い」は、昨今のSNSの浸透によって、(組織だけでなく個人を含めた)ある特定の意図を持った者によって容易に拡散することができるようになっていることは確かだと思います。

本書は、そのような「呪い」の正体をまっとうな社会科学の知見によって明らかにすることで、私たちが無益な呪いから距離を置くことができるようにすることを目的として書かれています。

では、その「呪い」の実例として、GDPにまつわる「呪い」について以下に要約します。

「日本の一人当たりGDPは先進国でも最低の水準(2023年には世界34位)になったため、もはや日本はアジアの代表国とは言えない」

このような言説は「呪い」に過ぎず、一人当たりGDPをもって日本の豊かさをジャッジすることには大きな問題があります。

そもそも、GDPは国全体が一年間で生み出したモノやサービスの付加価値の合計、すなわち生産額から原材料費を引いた「粗利」を意味し、その額をその国の人口で割ったものが一人当たりGDPとなります。

ただし、外国人労働者は、国の粗利(分子)を増やしてくれるものの、その国の人口(分母)にその数は含まれないため、移民労働者の割合が多い国や、税率を極端に下げるタックスヘイブンなどの政策をとることで巨大企業を誘致して分母を大きくできる人口の小さな国などが有利となり、実際にルクセンブルグ、アイルランド、デンマーク、シンガポールなどが上位を占めています。

そのような異常値を排除するため、人口5000万人以上の国だけで比べると、2023年の日本の一人当たりGDPは6位までジャンプアップします。

また、一人当たりGDPは一年間にどれだけの付加価値が生まれたかを測る指標、いわば「フロー」の概念なので、その国にため込まれた「資産の蓄積」、いわばストックを考慮していません。

しかし、その国の本当の豊かさは、当然ですがフローの蓄積の結果であるストックで見る方がより実態に近いはずです。

実際にそのことに気づいたフランスのサルコジ大統領は、2008年にスティグリッツ、セン、カーネマンといったノーベル賞級の経済学者を集め、人的資本(国民の持つ知識や技能と健康)、人工資本(インフラ等社会基盤)、自然資本(自然環境)の三つの指標から「資産の充実度合い」を測定する「インクルーシブ・ウェルス」という未来志向の測定モデルを作らせました。

このインクルーシブ・ウェルスで見た場合、日本は総量でアメリカに次ぐ世界二位、一人当たりで世界一位との評価が出たのです。

このように、私たちは社会科学の知見によって物を見ることで、無益な「呪い」から距離を置くことができると著者は主張するわけですが、とは言っても実際にはなかなかこのようなことを実行できるものではありません。

そこで著者は、次のような提案をしています。

それは私たちが自分たちの脳の性質を理解した上で、次のような習慣を身に着けることです。

まずは、私たちの「脳の性質」として、「短期的にはネガティブ情報をより記憶に残し、長期的にはポジティブ情報をより記憶に残す」というもの。

これは、生存のためにはネガティブ重視して命を守り、しかしいつまでもそれを引きずればやる気(生存モチベーション)がなくなってしまうので、過去の失敗や苦しみを良い経験として記憶に残したほうが生きやすくなるという人類の進化の過程で獲得した性質です。

続いて、この「自分の脳がネガティブな情報を過大に評価してしまう」という性質を理解した上で、私たちが習慣づけるべきことは、

①反応したのは単に不快だったからではないか?

➁この状況でどう感じるかを自分以外の誰かに決められていないだろうか?

③過去や別の事例と比較して、その問題は本当に悪くなっているのか?

④この問題は本当に誰かの悪意によるものか、それとも単なるミスや無知が原因ではないか?

の四つを自問自答することです。

そうすれば、自分自身で情報を再評価する姿勢が身につき、「呪い」から一歩身を引けるようになると。

このように、冒頭で述べたように一見「キワモノ」に見えた本書は、なんのなんの、実に「骨太」で「啓蒙的」な一冊でした。

 

◆この記事をチェックした方はこれらの記事もチェックしています◆