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言海

2025年7月22日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

以前ご紹介した「迷ったら、二冊とも買え」の中で、著者(島地勝彦氏)が尊敬する作家の開高健氏に、人生を渡っていくのに必要な知恵を得る方法として、「言海」を読むことを勧められたと書かれていました。

それは次のようなエピソードとともに。

「開高健先生から勧められた『言海』とは、国語辞典のことである。これは大槻文彦先生が編纂した辞書で、開高さんは海外旅行に出かける時、常に携帯していた。今では文庫版も出ているが、私が開高さんから勧められた当時はもちろん文庫版などは存在しておらず、神田の古本屋に行って注文した。数日後、古本屋から『揃ったのでご来店ください』と言われ、いそいそ出かけて行った。立派な和綴じの全五巻である。中古だし、高くてもせいぜい一冊一万円で計五万円くらいのものだろうと踏んでいた。甘かった。全巻で三十万円もした。今から三十年も前の三十万は私の懐には大打撃だった。でもまあいい。これで開高さんに一歩近づける。そう思えば、三十万円程度の出費など痛くもかゆくもなかった。」

この「言海」はちょっと前にこのブログでご紹介した「言葉の海へ」の記事の中で取り上げたばかりでして、その辞書のことに大いに興味を持ったわけですが、それでもその辞書を「購入」するまでには至らずにいました。

そのような中でのこの島地氏の言葉には、「お前の好奇心はそんなもんか!」と喝を入れられたような気がしまして、すかさずアマゾンで購入しました。

といっても、堅実派を自認する私は、「文庫版」のしかも「中古」を選択しました(笑)。

辞書ですのでこれをさすがに全部読むつもりはありませんでしたが、いくつか気になる言葉を引いてみることにしました。

まずは、今では「差別用語」として扱われている言葉の意味がそのように扱われていなかった時代にどのような扱われ方をされたいたのか、この辞書の語釈を読めばそのヒントが得られるのではないかと考えたからです。

私は、「めくら」という言葉を引いてみました。

「盲【目暗ノ義】メシヒ(*1)、目ニ見ルヿ(*2)ノ力ヲ失ヘルヿ」

*1:メシヒは古辞書の訓読みで目がくらく、見えがたいことを意味する。

*2:ヿは片仮名の「コ」と「ト」を合わせた文字で「コト」と読み、漢字の「事」に相当する合略仮名と呼ばれるもの。

これを見ると、この言葉の原義に「差別的」な要素は全くなく、その後の使用のされ方によって歴史的に「差別語」として排除されることになったんだなということがうかがえます。

ちなみに、このような解説ページを見つけましたのでご参照ください。

その他にも、「言葉の海へ」の中で著者が特に言及されていた項目を引いてみました。

「演説:衆人ノ前ニテ、己ガ意見ヲ演ベ説クヿ。」

「雑誌:種種ノ事ヲ雑ヘ記シタル書。多クハ、期日ヲ定メ、続物トシテ板行スルモノニイフ。」

これらの語釈を見たときに、もちろん文語で書かれているという点で現代人にとっては少々違和感を感じるものかもしれませんが、その一つ一つの品詞に全く無駄がなく見事のその事物の意味を表現しているなと改めて感じました。

私は「言葉の海へ」の記事の最後に、

「単語の文法的品詞の役割と、実際の運用が整理されずに言語を使用するような混乱状況を平気で受け入れてしまっているのが日本語だと思うのです。英語をはじめとするヨーロッパ言語の多くではこのようなことはほとんど見られないはずです。このあたりのことも、日本が『自国語の統一』という国家プロジェクトを、大槻文彦という一個人に押し付けてしまったことが一因なのではないか、私は本書を読んでそう思ってしまいました。」

と書きました。

しかし、それは国家としての言語に対する意識の低さを嘆いただけであって、少なくとも一人の人間に押し付けるにはあまりに重い責任を背負わされた大槻文彦という一個人は、その大仕事を見事にやってのけられたのだということを確認できました。

 

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