日本人の秩序感覚を考える
2016年10月12日 CATEGORY - 日本人と英語
前回、書籍紹介ブログにて脳科学者の茂木健一郎氏の著書「最強英語脳を作る」という書籍をご紹介しました。
彼は、英語教育の専門家ではありませんので、「日本人と英語」という問題についての基本的な論点を踏まえてらっしゃらない主張がいくつかあったようには思いますが、逆に英語を使って世界にも積極的に発信する脳科学者という立場からの「英語脳」というテーマへの様々な情報の提供という意味では、非常に貴重な指摘がありました。
今回は、その貴重な指摘の一つ、「日本人の秩序感覚」というテーマを取り上げたいと思います。著者は、このことについて以下のように言います。
「日本人は、ルールさえ守っていればOKだとという感覚が強すぎますね。このことが、日本から例えばユーチューブのような全く新しい革新的なビジネスができない理由です。」
昨今、訪日外国人の増加に伴ってホテルが足りないということが社会問題になっていますが、この問題に対する解決策としてエアービーアンドビーという民泊のポータルサイトが話題になっています。日本においてはこれをまずは、「旅館業法に違反する」という切り口から批判的にとらえられました。
また、ウーバーという民間の配車サービスについても同様に、「道路運送法に違反する」という切り口から批判の対象になることが多いです。
民泊にしても、現実に「宿泊施設が足りない」という現実の問題が存在するからこのようなサービスが提案されたのに、まずは現在のルールを守るということを最優先すべき事項と認識してしまう精神構造を持っているのが日本人です。
本書にはウーバーに関するアメリカの現状が次のように書かれていました。
「このサービスのどこがポイントかというと、地元の人がやっているということです。例えば、どこか郊外のまちに行く。そこであなたが、駅前からあるところまで行きたい時に、その地元の人が乗せてくれる。地元の人だから道を良く知っているのです。ですから、コミュニティータクシーみたいな感じなのです。しかも、運転手も客も互いに評価しあうので、ある意味では、普通のタクシーより安心なのです。普通のタクシーはどんな運転手にあたるか分からないし、意外と道を知らない人かもしれないし、乱暴な人かもしれない。高評価を得ている人なら安心して頼めるから、却っていいんです。そういう理由でアメリカでは急速に普及しているのです。」
そして、特筆すべきはこれは、日本におけるこのような現在のルールを守るということを最優先すべきと考えている人は、このような批判をする一部の人だけではないということです。
「ちゃんとしたタクシーの許可を得ていない運転手に運ばれるのはイヤ、誰が経営しているか分からない民泊の施設に泊まるのはイヤ」と一般の人が思っているから、日本では規制が外されないのです。
私は、著者からこのような指摘を受けて、実際に自分自身のなかの「イヤ」を発見してしまい、正直ショックを受けました。
これは、もう少し深めて考えてみると、日本人の「権威好き」という性質に繋がっていると思いました。
日本においてビジネスマンが英語を学ぶということは、「英語を道具としてビジネスを行う」ということを実現するためだと思います。この「英語を道具としてビジネスを行う」能力というものと、TOEICというテストの点数との相関関係はそう多くはありません。
言語能力というものは、そう簡単には測定できないからです。TOEICのような一方的なテストで測定可能な「読む」「聞く」という受動的な能力の測定結果を統計的に処理して「コミュニケーション」という包括的な能力を推定しようとしても無理があるに決まっているのです。
現在のように多くのビジネスマンが大挙してそのような限界があるTOEICのスコアに一喜一憂している姿は、おそらくその試験を作っているアメリカのETSにも滑稽に映っていると思います。
それぞれの業界、それぞれの企業にとって重要なのは、必要なものを徹底的にやり、不要なものは排除することです。
この当たり前のことを自らの判断で行うことができないため、相関関係はないけど、誰もが知っている英語のテストであるTOEICのスコア、すなわち英語界の「権威」にあれだけの反応を示してしまうのだと思います。
本書に書かれているように、英語は「文化」ではなく、世界の人々の行動のスタンダード、すなわち「文明」であるという考え方を少しでも理解しようとすれば、このような「日本人の秩序感覚」は見直すべき点もあるかもしれないと思いました。