なぜ英語には自動詞「驚く・満足する」がないのか
2024年1月26日 CATEGORY - 日本人と英語
書籍紹介ブログにてご紹介した「英語脳スイッチ!#307」からテーマをいただいて書いていますが、第七回目のテーマは、日本語と英語における「他動詞と自動詞の取扱い」についてです。
私が主宰する「英文法を血肉にする合宿」の「受身(受動態)」のところで受講生に必ず次のように念を押すことにしています。
「それは日本語では自動詞『驚く』『満足する』が存在するけれども、英語には存在せず、英語では必ず他動詞『~を驚かせる』『∼を満足させる』を受け身にしたSVCの形『驚かされた』『満足させられた』という形しか作れない。そして、おそらく英語を母国語とする人たちは日本人が『驚く』『満足する』という自動詞の存在を当たり前にしていることに対して非論理的だと思っているはずです。」
本書には、私のこの指摘の最後の部分「英語話者たちは日本人が『驚く』『満足する』という自動詞が存在すると認識していることに対して非論理的だと思っているはず」に関しての答え合わせにあたる部分がありましたので以下、要約引用します。
「日本語は自動詞を重視する言語で、英語は他動詞を重視する言語です。これには、『一つの事態をどの角度から見ているのか』が表されています。同じ光景を見ても、日本語では、「カップが割れた。(The cup broke. )」という表現がなされがちで、英語では「James broke the cup.(ジェームズがカップを割った。)」という表現がなされるということ。つまり、日本語では結果に注目し、英語では原因に注目するということです。なお、英語では他動詞をtransitive(運ぶ・伝える) verbとよび自動詞をintransitive(他動詞ではない) verbと呼びますが、このことからも英語(ヨーロッパ言語)の世界では他動詞がデフォルト(主役)で、自動詞がその派生(脇役)だととらえられていることが分かります。」
つまり、英語においては、原因を伝えることができる「他動詞」がまずあって、原因がなくても生じうるような動作がある場合には、その他動詞から派生して「自動詞」が作られたというプロセスがあったはずだと。
例えば、「壊す=break」という他動詞がまず生まれ基本的にそれだけでやり切ろうとしても、経年劣化などでひとりでに壊れることもないわけではないので、必要に応じて「壊れる=break」という自動詞が派生して生まれたという理解です。
しかし、「驚かせる」や「満足させる」などの他動詞に関して言えば、そもそも驚かせる人や物、満足させる人や物がなく、ひとりでに「驚く」や「満足する」ことが起こりうるわけはないので自動詞は存在していないというわけです。
この説明を受ければ、日本語の「驚く」や「満足する」という自動詞がどれだけ非論理的な存在かと感じざるを得ないのですが、しかしそれでも存在している以上、何かしら日本語にとっての「合理性」はあるはずです。
それが「結果のみを重視する」ことによって「責任追及を回避する」という姿勢です。
「The cup broke. 」という英文がほとんど見当たらないのに対して、日本語では「カップが割れた。」という文がいたって普通に見られるのは、あえて「誰が割ったのか」という原因には触れず、「カップが割れた」という結果のみに触れ、責任問題を消滅させることができる効果をねらっていると考えられるのです。
つまり、日本語は、このことが「非論理的」ではあることは百も承知で、責任を追及することで起こる社会での軋轢を回避できるという「合理性」を優先しているということです。
どうでしょう?
皆さんはこの事実に”驚き”、そしてこの説明に”満足し”ましたでしょうか?