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「ゼロ」というイノベーション

2021年12月5日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

前回ご紹介した「人類とイノベーション」から一つテーマをいただいて書きたいと思います。

それは「ゼロ」というイノベーションについてです。

このイノベーションの話に入る前に、私たちが普段普通に使っている「アラビア数字」についての知識を確認しておきましょう。

というのも、アラビア数字という名前がついているので私も「アラビア」由来の数字だと何の疑問も持たずに信じてきましたが、実はこれ「インド」由来の数字であるというところからこのイノベーションの話ははじまります。

なぜ「アラビア数字」と一般に呼ばれるようになったのかの説明は後にしますが、このインド由来の数字を使わなければ、掛け算はほぼ不可能であり、現代の科学技術はこの数字の存在に圧倒的に負うところが大きいことは誰もが思うことでしょう。

そしてそれは数字そのもののみならず、「0(ゼロ)」という概念と一体となったシステムとしてその圧倒的な存在意義を持ちます。

中国語の漢数字やラテン語のローマ数字などがその代替物として活用されることで現代の科学技術が維持できることは到底想像できません。

実は「0(ゼロ)」という概念は、628年にインドのブラフマグプタという天文学者によって発見され、その概念からプラスとマイナスという概念にまで発展させられました。

彼は自身の「宇宙の始まり」という著作の中で次のような簡潔な言葉をもってその概念を明らかにしています。

「借金引くゼロは借金。財産引くゼロは財産。ゼロ引くゼロはゼロ。ゼロから差し引かれた借金は財産。ゼロから差し引かれた財産は借金。ゼロに借金又は財産を掛けた結果はゼロ。」

この「宇宙の始まり」がゼロを「実数」として扱った地球上で最初の書物だと言われています。

ただ、この「発見(発明)」自体は現代のこの発展に直接結びついたものではありません。

現代の発展に結びつくまでには二人の「イノベーター」を必要としました。

最初のイノベーターは、アラブ人数学者のアル・フワーリズミ(「アルゴリズム」という言葉の元になった人物)で、820年ごろにイスラム世界に対して「ヒンドゥー(インド)数字による計算について」という書物を出版し、この「発明」を幅広く「伝える」人になりました。

続いてのイノベーターは、イタリア人数学者のフィボナッチで、著作「算盤の書」によってイスラム世界で用いられている「ヒンドゥー数字」の便利さをヨーロッパ世界に「広める」人になりました。

実際、当時のヨーロッパでは計算をするのにボード上で石ころを使ったローマ式算盤を用いなければならなかったのに対し、アラビア数字を使えば「筆算」によって簡単に計算が可能なことから、商人や学者に用いられ、「ヒンドゥー数字」が当時ヨーロッパで知られていた「ローマ数学」より優れたものであるということを人々に確信させることにつながりました。

ちなみに、彼が北アフリカに住んでいた時にこの「ヒンドゥー(インド)数字」の存在をアラブ人から学んだため、この文字が「アラビア数字」と呼ばれるようになりました。

インド人にとっては悔しい事実ですが、「発明」ではなく「イノベーション」が後世に語り継がれるというのはいつの時代も同じようです。