テクノロジーと社会性のはざまで
2015年1月18日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
このブログでもその開発段階(記事1・記事2)からウォッチしてきたグーグルの眼鏡型のウエアラブル端末「グーグルグラス」に関して昨日非常に大きなニュースが飛び込んできました。
なんと、「グーグルグラス個人向け販売中止」というニュースです。
「インターネット検索最大手の米グーグルは15日、米国と英国で専用サイトを通じて1台1500ドルで販売していた「エクスプローラー・エディション」と呼ぶソフトウェア開発者向けの眼鏡型のウエアラブル端末「グーグルグラス」の初期モデルを19日で販売を終了すると発表した。内蔵カメラがプライバシーを侵害するとの懸念が浮上し、公共の場で使用することの是非を巡って議論が起きていた。開発体制も見直し、今後は成長が見込める法人市場の開拓に注力する。」
まさに、記事1で紹介した「Done is better than perfect.」のとおりの動きをしているとも言えるですが、このグーグルグラスは「自動車の自動運転システム」の開発と並んで、グーグルの将来を左右する大きな新分野といわれてきた「ウェアラブル端末」の雄であると考えられてきたものだけにこのニュースは非常に大きなショックを世界に与えていると思います。
しかも、このニュースの最後に「今後は成長が見込める法人市場の開拓に注力する。」という記述がありました。これは、具体的には医療分野、例えば医者が手術をするときなどに状況に応じて離れたところにいる専門医のアドバイスを受けることなどが考えられると思うのですが、確かに、プライバシー問題が関わらない中で確かな需要はあると思います。
しかし、今までのグーグルの戦略からすると「?」と感じざるを得ないような気がします。
と言うのも、グーグルの収益構造の柱はなんといっても「広告収入」です。グーグル検索、Gメール、グーグルアースなどの優れたサービスを「大衆」に「無料」で提供し、情報のプラットフォームとして活用させることで圧倒的トラフィックを確保することによって、高い広告料を確保すると言うビジネスモデルを堅持してきました。
これが、そのサービスの利用者に「有料」で提供してきたマイクロソフトなどの企業と異なる点です。また、そのビジネスモデルの強さは誰の目にも明らかになってきているところです。
となると、このニュースの最後の記述はグーグルにとって非常に大きな方向性の転換を意味するということになると思います。そのような転換を検討せざるを得ないくらいにこのプライバシーの問題が大きくなってきているということかもしれません。
先日、若手経営者の集まりの新年会がありましたが、偶然にもその中でグーグルストリートビューの恐ろしさが話題になりました。このサービスは意外にも非常に地道でアナログ的な努力で成り立っています。と言うのも、屋根に設置されたカメラで四方の写真をとることができる車を実際に走らせて地球上のありとあらゆるストリートの写真をとることでサービスを作り上げています。
そこで問題になるのが、偶然その場に居合わせた人、車などです。なぜなら、そこにいてはいけない人、あってはいけない車などがストリートビューに写りこむことで、恋人間、家族間、取引関係などに重大な紛争を引き起こす原因となりうるからです。
そして、このウェアラブル端末に関しては、ストリートにとどまらず、人間が移動する空間すべてにそのリスクが生じるということになるわけです。
便利さとプライバシーの侵害はトレードオフ関係です。
今までは、このトレードオフ関係も、Gメールに見られるように、自分のメールにおけるやり取りをグーグルが解析して、関連がある広告を的確に届けるというような仕組みによって「便利さ」のほうに分があったと言うことで、グーグルのビジネスが許容されてきました。しかし、ここまでくるとグーグルと言えども、自らが提供する便利さとプライバシーの侵害の割合と言う考え方だけでは許容されないということを認識せざるを得ないのかもしれません。
つまり、絶対量が一定を超えると、割合というトレードオフの関係が成立せずに即NGとなってしまうということです。
ここが人間が完全には合理的な存在ではないという証かもしれません。
テクノロジーと社会性のはざまで、ほんの少しさびしい気持ちとほっとする気持ちが心の中で共存している自分にこのニュースを見ながら、気がつきました。