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シンプリシティの法則

2023年1月24日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

前回、ご紹介した落合信彦・陽一親子の共著「予言された世界」にて息子である陽一氏が自らの現在を形作る上で強く影響された本の一つとして取り上げていた「シンプリシティの法則」を読んでみました。

「シンプリシティ」とは日本語では「シンプルさ」とでも訳すのでしょうが、本書の表紙に世界的な経営コンサルタントであるトム・ピーターズが本書に寄せた推薦文の中にこの言葉についての次のような言及がありました。

「本書の著者であるジョン・マエダは、ばかばかしいほど複雑なテーマであるシンプリシティを近づきやすく、使いやすいものにしてくれた。ブラボー!私がこの先10年間の間に手にするであろう製品をデザインする人たちがこの本の内容を深く心に刻んでくれるように願っている。」

彼の「シンプルさというテーマはばかばかしいほど『複雑な』なものである」という何とも皮肉な表現をされていますが、この評文を読むとデザインにおける「シンプルさ」の重要性はひしひしと伝わってきます。

そこで思い出したのが、だいぶ前に本ブログでご紹介した「なぜデザインなのか」という本です。

本書は私にとって「デザイン」への理解を深めるきっかけとなった非常に印象深いもので、そのブログの中でその肝となる記述を引用しているのですが、ここ再度その記述を引用したいと思います。

「モダンデザインはいわゆる装飾から脱して、非常にシンプルで合理的なものを生み出しているわけです。デザインはフリルじゃないよとずっと言われています。でも人類のものづくりを冷静に観察すると98%くらいはフリルの方にエネルギーを注いできていると思う。つまり、近代以前の長い人間の歴史の中ではやはり装飾こそがデザインだったと言わざるを得ない。例えば、青銅器を見るとびっしりと細密な模様が付けられています。村とか国とかが求心力を保っていくためには、それを維持する演出が必要だったわけです。この国はすごいんだぞと。ところが、近代というのは、一人一人が平等になっていき、国家は制度としてあるけど装飾によって示威行為しなくてよくなってしまった。個人が自分のやりたいことを自分の責任で自由にやれることが目標となり、それが達成されたならば、必要なものは柔軟な合理性であり、目的に到達する最短距離を発見できるシンプルな知性と感性が求められてくる。」

今回の「シンプリシティの法則」では、上記引用文中の特に「必要なものは柔軟な合理性であり、目的に到達する最短距離を発見できるシンプルな知性と感性」の部分にフォーカスして、トム・ピーターズの指摘の通り、その複雑なテーマを「近づきやすく、使いやすいもの」として理解させてくれる内容になっていました。

「シンプリシティの問題」がシンプルな問題におさまらず、ばかばかしいほど「複雑な」なものになりがちな理由を、人間の欲求が「使いやすい製品サービス(シンプリシティ)を望む一方で、そうしたものがあらゆる望みをかなえてくれること(コンプレクシティ)を望む」という天邪鬼なものであり、それを解決するためにには「シンプリシティ」と「コンプレクシティ」の間のどこでバランスをとるのかという問題を内包しなければならないからだと理解しました。

そのバランスのとり方として「縮小」という方法がありますが、以下のような事例が挙げられていました。

「テクノロジーは『縮小』している。60年前には重さが27トン、設置面積が167㎡もあった機械の計算能力が、今では小指の爪の1/10にも満たないICチップに詰め込まれている。これを使えば、これまでよりはるかに大きなコンプレクシティをはるかに小さな規模で実現できる。今日ではICチップのおかげでスプーンと携帯電話は全く同じ寸法にできる。だが携帯の内部はブルドーザーよりも複雑になる。外見は当てにならないというのはこのことだ。」

シンプルさを追求するために「縮小」の努力をしてももうこれ以上できないという場合、「縮小」以外にもシンプルに見せる「具体化」という方法があります。

「あるプロセスにかかる時間を『縮小』したところで、時間には限界もある。その際には時間を『具体化』するのだ。そのよい事例がプログレスバーの発明だ。アップルはかつて、非常に処理時間の長いタスクをユーザーにやってもらうという実験をした。するとこんなことが分かった。タスクの進行がグラフィックで表示されると、それが表示されないときと比べて、ユーザーはコンピューターが短い時間でタスクを完了すると認識したのだ。ハインツの瓶をさかさにしてケッチャップがでてくるのをじっと待って最後にボトッとおちる時間の長さと、パンにバターナイフでマーガリンを徐々に伸ばしていく時間の長さが全く同じだったとしても、明らかに後者のほうが時間が短く感じるのと同じことだ。」

このように、全10種類にわたる「シンプリシティの法則」について、それぞれ徹底的に突き詰めることでその本質を理解することができる一冊となっています。

 

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