中国の漢字に「鰯」がない理由
2018年12月10日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
先日(2018年11月25日)の日経電子版の記事に日経新聞としては珍しい記事タイトルと同名の記事がありましたのでご紹介します。
「西暦710年に都となった平城宮の跡地から大量の木簡が発見されていて、うちの一枚に『鰯(いわし)』という字が書かれている。『鰯』は《魚》と《弱》を組みあわせ、『弱くてすぐ死ぬサカナ』という意味で作られた国字(和製漢字)である。だがイワシは平城宮の前に都であった藤原宮跡から発掘された木簡にも登場しており、そこでは『伊委之』と書かれている(『委』にニンベンをつけると『倭』になる)。もともと日本固有のモノや概念は、このように漢字の発音を使って表現していたのだが、ある時期から専用の文字を作るようになった。その変化の背景には、漢字の学習が普及し、漢字による文書の作成が要求されたことがある。」
日経新聞が突然なぜこの記事を?と不思議に思われる方が多いと思いますが、私にとってはこの記事は大いに興味を書き立てられるものでした。
というのも、日本が明治維新を達成して、アジアで唯一自らの力で欧米列強の植民地化を回避した国となりえた一つの大きな理由が、その脅威である欧米列強の文化を自ら積極的に受け入れる判断をしたことだと言われます。
そして、漢字を活用した「翻訳」の力がその原動力となりました。
そのあたりのことについては過去のブログ記事(その1 その2 その3)を参考にしてください。
私は今まで、日本人は自分自身の文化に存在しない概念を文字に起こそうとした場合、漢字を利用して新しい言葉を作り上げるという意味での「翻訳」という手法を明治期に確立したと思っていました。
逆に言えば、それまでは中国語で使用している「漢字」の意味のルールの範囲で取り入れていたものを、その時期に初めてそこから独立して、新しい組み合わせによる新しい意味のルールを作り出したと思っていたということです。
この記事は、その手法の確立時期の認識を何百年もさかのぼらせるような私にとっての「新発見」だったのです。
普通、ある言葉を母語として使用する集団が、別の言葉を導入する場合に、その新しい言語をそのまま利用するというのは、情報がいきわたった現在のグローバル社会においても常識です。
その新しい言語である中国語を活用してその言語にないものを作ってしまうことを1000年以上前にやってのけ、しかも明治以降にはそれを言語の母国である中国に逆輸入させてしまったというわけですから世界的にも珍しいことには間違いありません。
そんな誇らしさを1000年くらいさかのぼらせてくれるようなスカッとする記事でした。
あっ、でもこれでは日本人が中国にない漢字を作り出したという説明であって、タイトルの「中国の漢字に鰯がない理由」を説明したことにはなりませんね。
おまけのようになってしまいましたが、記事からその部分を抜き出します。
「もちろん現代の中国人がイワシを知らないはずはない。しかしその魚を今の中国語では『沙丁』と書き、シャーディンと発音する。すなわち英語のsardineの音訳語であって、イワシを表す専用の漢字は中国では一度も作られたことがない。古くから『地大物博』(国土は広く、物産は豊富である)と形容される中国だが、こと海産物に関してはいささか貧弱であって、古代中国人のほとんどはイワシを見たことがなかった。」