「人間の煩悩」を読んで
2017年5月31日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
以前この ブログの記事 にて 二度 にわたってアドラー心理学について考えてきました。
繰り返しになってしまいますが、この考え方を短くまとめますと以下のようになるかと思います。
「いかなる経験も、それ自体では成功の原因でも失敗の原因でもない。我々は、自分の経験によるショック(トラウマ)に苦しむのではなく、経験の中から目的にかなうものを見つけ出す。自分の経験によって決定されるのではなく、経験に与える意味によって自らを決定するのである。」
考え方としては実にシンプルなのですが、実際にその考え方に自らの生き方を重ねられている人がどれだけいるかと言われれば、非常にこの考え方の実践が難しいことが明らかになります。
そんな中で、実際にアドラー心理学を意識しているかは別として、自らの経験からこの考えに近い実践論を書かれている本を探しておりましたら、佐藤愛子氏の「人間の煩悩」という本に出会いました。
著者は、現在93歳。ウィキペディアによればその人生は、以下のようにまとめられています。
「小説家の佐藤紅緑を父に、『お雛様』や『ちいさいあきみつけた』の作詞で有名な詩人のサトウハチローを兄に持つ。父は、先妻を捨て、年の離れた愛子氏の母である女性と結婚したり、ハチローを含む異母兄弟がすべて道楽者の不良少年・不良青年となり、最終的にハチロー以外は破滅的な死に方をしている。また、愛子氏本人も、夫の会社の倒産による借金の肩代わりや二度の離婚を経験している。」
この情報だけを見ても、著者の人生は、「なぜ自分だけがこんな目に遭うのか?」と思うことの連続で、波乱万丈そのもののように思えます。
そんな著者が、93歳となる今に至るまで、どうすればこれらの悩みから解放されるのかという問いに対して真剣に向かい合った末に行きついた答えとは、「人生のあらゆる事象から逃げずに受け止めることが道を拓く」ということです。
まさにアドラー心理学の「自分の経験に与える意味によって自らを決定する」ことと言葉は違えど同じことを言っているような気がしました。
本書は、著者のいままでの作品の中から、担当編集者が「これはいい」と思える文章を抜粋して一冊の本にしたものです。ですから、言ってみれば彼女の「人生のあらゆる事象から逃げずに受け止めることが道を拓く」生き方を、時間的にも空間的にも様々な切り口から表現した言葉の総集編ということになります。
その総集編の中で、私が最も「これはいい」と思えたのがこの言葉です。
「協調性の持てない私は、自分の自我の強さを『苦労を引っかぶって元気良く生きる』という方向へ持って行った。しかたない、妥協しない、言いたいことを言わずにはいられないというわがままを、『正直』という美徳のほうへ引っ張った。人々は、私のわがままや激怒症や憎まれ口に閉口しながらも、私が正直であること、心にはないことはいわぬ人間であることだけは認めてくれるようになった。『他の人が書いたなら、こんなことウソだ、と思うかもしれませんが、佐藤さんが書いているので本当なんだろうと思いました。』という読者の手紙を読むとき、私はとてもうれしい。」
見事に、「人生のタスクに立ち向かう」こと、「人の評価を求めないが自由である」こと、そして「他者への貢献が自らの幸福である」こと、という一通りの解説を全て網羅しているではありませんか。
アドラー心理学の実践論が書かれている本を探したわけですが、この文章を見つけた時、まさにそのお手本的教材に出会ったような感動を受けました。