具体と抽象の往復運動
2017年5月3日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
前回、「学ぶ力をうばう教育」という本をご紹介して、子供たちに自分で学ぶ力をつけさせるためには、教師自らも「自問自答」という知的に「不安定」な状態に率先して自らを置く姿勢を持たなければならないという話をしました。
私は、教育に関わる人にとっての最も重要な性質は、この知的に「不安定」な状態を歓迎することができるかどうかだと思っています。
その性質と職業の一致が見事になされている方の一人に、経営学者である一橋大学の楠木建教授がいらっしゃいます。
私は、教授の本が出版されると必ず購入して読むのですが、今のところはずれは一つもありません。
それほど教授の著作は、読んで得するものばかりなのですが、先日文春オンラインというサイトにて「楠木建の『好き』と『嫌い』」という連載をされていることに気が付きました。
そのハズレ無しのお得な文章をなんと、無料で読むことができるのです。
私にとっては非常にうれしいサイトなのですが、2017年2月14日の記事に、まさに、「自問自答」という知的に「不安定」な状態がどのようなものなのか分かりやすく書かれていましたので取り上げてみたいと思います。
教授は、非常に身近な一見するとバカバカしいようなテーマを使って、「考える」ことの意味を私たちに伝えるのが非常に上手です。
例えば今回であれば、「好き嫌い」について、自分がなぜ「シュークリーム」が好きなのかという問いについて自問自答されています。
もちろん、「甘いものが好き」という包括的概念の下位概念として「シュークリーム」が好きとなるわけですが、しかし、「クッキーはすきではない」という事実の存在から、必ずしもそれがリニアに繋がらないのはなぜかというより深い問いを立てることになります。
そしてすかさず、シュークリームは「しっとり」、クッキーは「乾燥している」ということから、自分は「水分含有率が高い」甘いものが好きなのではないかという仮説を立てるのです。
しかしです、水分の含有率がその本質であるならば、自分がカルピスやホットチョコレートなどを好きではないことの論理が成立しないことに気づきます。
そうなると、単純に「水分含有率が高い」ということではなく、自分にとって「最適な水分含有率」というのが存在しており、それは「しっとり」とか「弾力性がある」という言葉で表現されるような「加減」のポイントがあるということに行きわたります。
しかも、「卵もの」であることといったようなそれ以外の変数も存在していることに気づいていく、、、
このことを繰り返していくことによって、その仮説はどんどん洗練されていくことになります。
教授は、このことを以下のように表現されています。
「『それはどういうことだろう』『なぜだろう』という問いに対して自分なりの答えを出す。『考える』とはそういうことなのだが、その中身はつまるところ『具体と抽象の往復運動』である。断片的な具体(シュークリームが好きでクッキーが嫌い)を抽象化してみる。すると抽象的な概念なり次元(水分含有率)が見えてくる。今度はその概念を具体レベルに落とし込んで適用してみる。さらに概念が洗練され、対象に対する理解が深まる。」
現実社会は、経営の世界はその最たるものであると思いますが、無数の「変数」が入り組んで出来上がっています。
ですから、その現実社会において「学ぶ」、「考える」ということは、この「具体と抽象の往復運動」をどこまでも飽きずにやり続けることなのだということではないでしょうか。
今回も、楠木教授のハズレ無し伝説、記録更新しました。