
話すためのアメリカ口語表現辞典 #318
2024年8月16日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介
【書籍名】 話すためのアメリカ口語表現辞典
【著者】 市橋 敬三
【出版社】 研究社
【価格】 ¥3,600+税
【購入】 こちら
私は自社のウェブサイトにおいて、「しなやか英語辞典」というコンテンツを運営しています。
そのページの中で私は、日本人の英語によるコミュニケーション能力の低さが、「学習の量の不足」よりも「(口語と文語の)バランスの悪さ」に起因する部分が大きいことを指摘しています。
それは「英語を話す」環境が圧倒的に不足している日本において英語を自習的に学習するとなると、口語すなわち「生活に関わる表現」に触れる機会を見つけるのが非常に困難だからです。
そもそも、口語表現というのは、生活と有機的に結びついているので、ランゲッジ・ヴィレッジの「国内留学」のような環境を作り出すことでしか、なかなか「抽出」が難しく、机上の学習で触れる文章はほとんどが文語表現になりがちです。
だからこそ、私はそのバランスをとることを目的として冒頭の「しなやか英語辞典」を自らつくったわけです。
その意味で本書は、しなやか英語辞典の「紙版」ということになると言いたいのですが、本書を手に取って冒頭を読んで、本書を作り出す著者の努力を目の当たりにして、そんなことを軽々しく言っていた自分がとても恥ずかしくなってしまいました。
それは、その中で「抽出」されている口語の数が圧倒的に多いことはもちろんなのですが、それぞれの口語がどのくらい人口に膾炙しているかのチェックをアメリカ人のインフォーマントを「厳選」して行うというものすごく丁寧で厳密な体制をとっていたことを知ったからです。
それは、「インフォーマント」に求めるべき以下の5つの基準を設けた上で、64名という数のアメリカ人を集めるというものでした。
①日本語に精通したアメリカ人は不適切
日本語を上手に話せるようになると日本人的な英語を話してしまうという傾向があるから。
②長年日本に住んでいるアメリカ人は不適切
アメリカを留守している年数が長くなることで、時代とともに使用頻度に変化が出てくる単語や表現や逆に新しく使われる単語や表現に疎くなるから。
③若年層(25歳以下)と熟年層(55歳以上)は不適切
両極端にいけばいくほど、本来知っているべき単語や表現を知らない可能性が高くなってくるから。例えば日本語で言えば、大卒を含めた日本の若者で「言質」という表現を知っている割合は極めて低いという。
④自信のない時は回答を控えさせる(I ‘m not sure.かI don’t know.と答えさせる。)
I ‘m not sure.が多いということは平均的なアメリカ人が知らないことを意味するので、それ自体を適切な答えとすべきだから。
⑤同意を求めるような質問の仕方をしない
一流紙や雑誌などからの一節であることを明示した上で、同意を求めると本来自信がなくても同意しがちである。しかし、それらには執筆者特有の表現も多くみられるため、インフォーマント一人一人が感じるままに応えられるような雰囲気を作ることが必要だから。
そもそも口語表現というのは机上に「抽出」するのは難しいものであるということを書きましたが、本書を読むと、その難しさをこれだけの努力と気遣いを加えることで乗り越え、ようやく作られたことが良くわかります。
非常に貴重な「一冊」です。