日本人と英語

ELFは下手な英語ではない

2025年8月6日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログでご紹介した「使うための英語#352」からテーマをいただいて書いていますが、第三回目のテーマは「ELF(世界の共通語)に対する誤解」です。

そもそも、私は本書をご紹介する文の中で、

「時間がないけれど仕事で英語を使わなければならないという切迫した事情をお持ちの方には、目的から逆算して、必要な学習を効率的効果的に行う本書(やNewspicksの動画)で紹介されている方法は非常に有効だと思います。」

という書き方をしており、これだけを読んでしまえば、ELF(世界の共通語)なるものは、ネイティブが使う英語と比べて単純化されていて、英語を母国語として使わない人たちでも簡単に習得できる「簡便的」な英語、つまりそれは、(ネイティブと比べて)「下手な英語」にとどまることを示唆しているように思えても仕方ないかもしれません。

これについて著者は本書において、そのような理解は「誤解」であることを指摘して、以下のような2つの観点から正しいELF(世界の共通語)の理解を促しています。

①ネイティブの英語を否定しない

まず、ELFがネイティブの英語やその文化を否定するような視点で主張されているわけではない。英語圏の各国には独自の英語と文化があり、その英語はその言葉を母語とする人々の誇りであり愛情の対象でもある。ネイティブの人々が使う英語は洗練され、面白く、機能的で効果的、魅力にあふれている。事実、私自身その世界は魅力的で楽しいと思っている。ただ、この洗練された言葉遣いや豊かな文化をすべての英語を使う人に強要したり、それを基準に他者を批判したりすべきものではないというのがELFの発想だ。

つまり、敷居が高い高級料亭の存在それ自体は評価されるべきものであるけれども、それをもってすべての外食産業における個別のお店の評価に影響を及ぼすようなものではないということと一緒で、ネイティブの英語をそれ以外の英語ユーザーに適用して評価の基準とするようなものではないということでしょうか。

➁ELFは下手な英語ではない

そのような独自の文化と密着した魅力的な英語の存在を認めながらも、ELFは稚拙な英語屋やB級英語であるということではないということを理解する必要がある。どんな英語力でも、英語を使って何かをする人は一人前の英語ユーザーだから、ELFの入り口の敷居はとても低い。一方で、非常に複雑で高度に鍛えられた英語コミュニケーションをしているELFユーザーも多い。例えば、EUでは極めて複雑で重要な議論の多くを英語で行っている。首脳たちの複雑なニュアンスを伝える会見や会話などを見ていると、彼らの英語から母語の影響がはっきりとわかる、ネイティブとは違う英語を使っている。しかし、ヨーロッパの将来を決める重要な課題について議論を戦わせるときの英語を稚拙だという人はいない。

このことは前回の「マルチコンピタンス(複合能力)」の議論と重なる部分が大きいと思いました。

ここでこのことを体感的に理解できる動画を見つけましたのでご紹介します。

これは、宇多田ヒカルさんと代表ブログでご紹介済みの「サピエンス全史」の著者であるイスラエル人歴史研究者ユヴァル・ハラリ氏との「AIの進化と創造性」についての対談です。

宇多田ヒカルさんの英語がネイティブ英語なのかどうかについては微妙なところだと思いますが、ユヴァル・ハラリ氏の英語は明らかにネイティブではない、すなわちELFであると言えます。

この中でこれだけの深くて複雑な議論が成立しているということ自体が、この視点の正しさを物語っていると思います。

ですから、ELFはその入り口の広さと奥行きの深さという範囲において、ひとりひとりが英語を使う状況や目的によって必要な英語力を決めることができるという、非常に柔軟性の高い概念ということになるのだと思います。

ということで、ELFとは英語の「レベル」の区別ではなく、英語の「使われ方」の区別の概念だというのが最適な説明になりそうです。

 

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