「しなやか英語」と「ごつごつ英語」の科学
2014年9月24日 CATEGORY - 日本人と英語
前回の「日本人の英語」の記事では取り上げなかったのですが、私としてはどうしても一つ記事を別に作って皆様と共有させていただきたい項目がありました。
それは、「英語的表現とラテン語的表現」という項目です。
「レポートを提出しました。」と「レポートをだしました。」というように、日本語で同じ意味を表現するのに二通りの方法がありうるように、英語においても「I submitted the report.」と「I turned in the report.」の二通りがあります。
submit と turn in 以外にも reconsider と think it over、enter と come in も同様です。
意味は基本的に変わらなくても、日本語でも英語でも前者のほうが「硬い」フォーマルさを表現でき、後者では「やわらかい」日常的な感覚を表現できます。もちろん、どちらが正しくてどちらが間違いというものではありません。正式な報告書などには、前者を使い、会話や交換日記などには後者を使うという使い分けの問題です。
著者はこの二種類の違いを、ラテン語系由来の言葉とアングロサクソン語系(本来の英語)由来の言葉の違いであると指摘しています。本書ではこの二つの違いについてはあまり詳しく説明がありませんが、本ブログでは、「英語の歴史」の記事において詳しく説明をしておりますのでご参照だくさい。
この歴史的流れは、日本語における漢文と大和文の違いとまさに重なります。古代日本には文字がなく、「大和言葉」という原始日本語のみが存在していました。例えば、「とる」という言葉は大和言葉です。中国から漢字が入ってくるまでは、「とる」の意味は大和言葉では1つしか存在していませんでした。
1つしか存在していなかったということは、その1つの守備範囲が非常に広いということです。だからこそ、「とる」という言葉が「やわらかい」感覚を持っているともいえるのだと思います。その後、中国より漢字が入ってはじめて「取得」「採取」「捕獲」「執行」「摂取」「撮影」(確かにこれらは「硬い」ですね。)など微妙な意味の差を言葉で表現できるようになりました。
日本語も英語も「やわらかさ」を犠牲にして「厳密性」を手に入れたということです。
このことについては、私は以前から、「しなやか英語とごつごつ英語」という造語を作って啓蒙活動を行ってきました。(詳しくは、拙書「富士山メソッド」をご参照ください。)言うまでもなく、しなやか英語が「turn in」をさし、ごつごつ英語が「submit」をさします。
冒頭の、画像をご覧ください。日本人の英語学習者の性質の一つとして「日常的な表現ほど弱い」ということがあげられます。
①の「セーターを裏返しに着てしまった。」の表現にはセーターという外来語は別として、すべてが大和言葉ででてきています。実に日常的で生活に密着しています。
それに対して②の「日本政府は北朝鮮に政治的圧力をかけるべきだ。」は、漢語のオンパレードです。全然、生活に密着していません。
ところが、日本人の英語学習者に「どちらの文章が英語に直しやすいか?」という質問を出すと、長く英語を学習している人ほど、②の「日本政府は北朝鮮に政治的圧力をかけるべきだ。」つまり、「ごつごつ英語」をとる傾向にあるという調査結果が出ています。
私は、自著でこの現象を日本人の英語における大きな問題だと指摘しています。しかし、時に誤解を受けることもあります。それは、私が「しなやか英語」のほうが「ごつごつ英語」よりも大切だ(重要だ)と私が主張しているという誤解です。
そうではありません。本書において、著者がこの項目で指摘しているように「いきいきと伝える」べき時と「フォーマルに伝える」べき時とのバランスをとる必要があるというのが私の主張です。
日本人の留学生にありがちな、大学での専門の話に関してはそこそこなのに、飲み屋での話はまったくダメというのは明らかにバランスにかけるでしょうという話です。
特に受験英語を経験してきた日本人の多くが、一対一対訳式に語彙を暗記するという方法をとってきているので、どうしても「ごつごつ」方向に偏ってしまっています。
ですので、なんとかそのバランスをとるために、「しなやか英語」の重要性を自著やウェブコンテンツである「しなやか英語辞典」において説いているのだということを是非ご理解ください。
そのことを、きちんと整理して体系的に指摘されたいた本書に大きな感銘を受けました。