it (それ)は何を指すのか
2021年11月13日 CATEGORY - 日本人と英語
書籍紹介ブログにてご紹介した「日本人なら必ず誤訳する英文」からテーマをいただいて書いていますが、第七回目のテーマは「itが指すもの」です。
itはもちろん代名詞ですから、中学一年生でも「それより前に出てきた名詞を指す」という答えがすぐに帰ってくるはずです。
ですが、著者は日本語ではそのようなあいまいなとらえ方でもなんとかなるが、英語ではダメだと言います。
私もお恥ずかしながら、今まで英語を学んできてこのような問答には初めて出会い完全に混乱してしまいました。
まずは本書より例文とその訳文を抜き出してみます。
They had to turn down the offer, for their club had a strict rule. It should be improved, but as a matter of fact it was not.
(彼らはその申し出を拒まざるを得なかった。彼らのクラブに厳しい規則があったからだ。そのクラブは改善されるべきだが、現実にはそうもいかなかった。)
私もこれを解説を見る前に自分でやってみた時に、「なんだ、正解じゃん!」と思ったのですが、皆さんもよ~く訳文を見てください。
(そのクラブは改善されるべきだが、現実にはそうもいかなかった。)ですよ。
私が作った訳文はこうです。
(そのルールは改善されるべきだが、現実にはそうもいかなかった。)
おそらく、皆さんの中でも同じような訳をした人も少なくないのではないでしょうか?
この謎を解くために、以下に著者の指摘を引用します。
「そもそも、英語においてitがどの単語を受けるのかについてのルールは存在するのでしょうか。もちろん例外はありますが、一定の原則はあります。そして、これは日本語において『それ』がどの単語を受けるかについてのルールとは微妙に違っているのです。日本語の『それ』は、直前に登場した名詞または名詞相当語句を示すことが多いのですが、英語の場合は少々勝手が違います。英語は主語と動詞が幹をなす構造が日本語よりもがっちりしていて、なかなか崩れません。このような言語では、itが文の主語である場合、それが指すのは『直前の名詞』ではなく、『直前の文の主語』である方がむしろ自然であり、そちらが原則となります。同様に、itがその文の目的語なら、『直前の文の目的語』を指すのが原則です。これはどんな場合でも100%通用するルールではないので、どうか勘違いしないように。ただ、英語を読む上での第一印象、直観はそうであるべきで、それで意味が通じない時に初めて別の可能性を探るという姿勢を保つべきです。」
こんな原則論、今まで誰も教えてくれなかったですよね。
だから、私は当り前のように(そのルールは改善されるべき)との訳を作って、この落とし穴にはまってしまいました。
それほど先入観というのは強力です。
自ら主宰する「文法講座」で偉そうに、「英語は何よりも『文型(骨格)』が大切で、これを意識しないで英語を勉強するなんてありえない!」と声高に叫んできたことに、とても恥ずかしくなりました。
今回この先入観を排除するきっかけを作ることができてよかったです。