なぜmustには過去形がないのか?
2021年2月24日 CATEGORY - 日本人と英語
書籍紹介ブログにてご紹介した「英語の歴史から考える英文法の『なぜ』」からテーマをいただいて書いていますが、第五回目の今回のテーマは「助動詞must」です。
この助動詞mustは、すでに「法助動詞」の一種であるということを確認済みですが、実は他の法助動詞can may will shallなどと異なり、過去形が存在しないという性質があります。
今回は、その性質がどこから来ているかについて本書より以下に該当部分を引用しながら確認したいと思います。
「元来mustは『~することができる。許されている』という意味で、否定形では『~してはいけない』という意味になることから、肯定ではその逆の『~しなければならない』という意味に解さるようになり、最終的にその後『~しなければならない』という意味に変わりました。」
ここで一点、本論とは異なりますが私がずっと疑問に思っていたことをさらりと解消してくれていますのでその指摘だけさせてください。
それは、許可の助動詞mayの意味が「~してもよい」、そしてその否定が不許可なので「~してはいけない」であり、義務の助動詞mustの意味が「~しなければいけない」であってmayとは全く異なるのに、否定が「~しては(絶対に)いけない」と禁止として不許可よりは強いですが、同じ意味になることがどうしても解せなかったことです。
この本書の説明によってすっきり解決したので続けます。
「他の法助動詞can may will shallなどと異なり、過去形が存在しないのは、mustに別の背景があったからです。mustに相当する古英語の動詞の現在形は、一人称ではmot、二人称ではmost、三人称ではmot、そして過去形は人称にかかわらずすべてmosteでした。ですが、当時の人々は義務や否定の禁止という表現の『強さ』を嫌い、控えめな気持ちを表すために、仮定法過去としてmosteを使うことが多く、また形もmustに変わり、現在の意味で使われるようになったものです。つまり、mustはそれ自体が(仮定法)過去形由来であったために、その過去形は存在しないというわけです。現代英語では、過去という文脈が明らかな場合、mustをそのまま使ったり、その文脈が明らかでない場合には、had toという別の言い方を代用します。」
つまり、「mustには過去形がない」のではなく、「mustには(仮定法)過去しかない」というのが正しい認識であるというべきでしょう。