日本人と英語

大母音推移とはなにか

2021年2月25日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英語の歴史から考える英文法の『なぜ』」からテーマをいただいて書いていますが、第六回目の今回のテーマは英語の発音の変化「大母音推移」についてです。

英語が他のヨーロッパ言語と比較しても、綴り字と発音が大きく異なる場合が多いことは以前のブログ記事で何度か英語の歴史を取り上げながらお伝えしました。

そして、その違いを作り出した原因は、グーテンベルグの活版印刷の発明によって文字が書面に固定された後、発音の変化が何度も起こったことだということでした。

その発音の変化の中でも非常に大きなインパクトを持つものが「大母音推移」と呼ばれるものですが、今までその存在のみを知るだけでその内容までには踏み込んでいませんでした。

本書においては、かなり詳しくこの「大母音推移」の内容に触れられていましたので以下に引用します。

【大母音推移による変化】

「1400年頃から1600年にかけて英語の母音は大きく変化しました。この時期は中英語の時代でアクセントのある7つの母音の発音がすべて変わったのです。その理由は未だ解明されていないのですが、当時、人々は顎を上げ気味に発音し出したそうです。つまり、長母音を発音するとき、舌を高めに発音するようになったのです。例えば、現代英語taleは中英語ですでに現代と同じようにtaleと綴られながら、(ta:lə)と発音されていました。母音はアクセントのある(a:)は、大母音推移によって(ɛ)に変わりました。その後、大母音推移はさらに続き近代英語で(eɪ)に変わり、さらに語尾の母音(ə)も消え、現在の(teɪl)になりました。

アクセントを持つ他の長母音も玉突きのように順に一つずつ上の位置に移動していきました。では、一番高い位置にある(ɪ:)はどうなったでしょう。(ɪ:)はこれ以上高くなることはできません。そのため、その前に(ə)をつけて(əɪ)と発音されるようになりました。その後近代英語で、二重母音(aɪ)に変化しました。現在英語のtimeは古英語tima(tɪ:ma)→中英語time(tɪ:me)が、(təɪmə)となり、その後語尾の(ə)が落ち、更に(əɪ)が(aɪ)に変化して(taɪm)となりました。舌が後ろ寄りで一番高い位置にある(u:)についても同じです。(u:)はこれ以上高くなれません。そのため、(əu)と発音されるようになり、その後、(au)に変化しました。現代英語のcow、house、 howなどはその例です。」

また、もう少し分かりやすい例として、母音のアルファベットの「名称」で説明がつきます。

A:こちらは英語以外のヨーロッパ言語では現在のローマ字のように「a:」というのになぜか英語では「eɪ」と呼ばれ、同じく、Iは英語以外のヨーロッパ言語では「i:」というのになぜか英語では「əɪ」と呼ばれている理由として、

「かつてAの発音が『a:』だったものが大母音推移によって『eɪ』となり、Iの発音が『i:』だったものが大母音推移によって『əɪ』になったから。」

と言えば、上記の説明がよく分かるのではないでしょうか。

このように「大母音推移」の内容については大方理解できましたが、本書においてもではなぜこのような大きな変化が起こったのか、その原因については不明ということでした。

その原因について定説はないようですが、このままではどうしても気持ち悪いので以前のブログで取り上げたウィキペディアの記事の仮説を再度引用しておきます。

「わずか200~300年という短期間にこれほどの変化が起きた原因は特定されておらず、現在も謎のままであるが、黒死病(ペスト)により少数の知識階級の人々が死んだため、大多数を占める下層階級の人々の間で使われていた発音が表に出てきたという説もある。」