「技術志向」と「消費者志向」
2015年3月1日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
また、いい映画を見ました。2002年公開の「陽はまた昇る」という映画です。
1970年代、家庭用ビデオの分野で当時技術的にも優位に立っていたソニーのベータマックスを打ち負かし、ついには世界標準にまで上り詰めた日本ビクター社のビデオ事業部の奮闘を映画化したものです。あらすじはこうです。
「ビデオ事業は当たれば5000億円のビジネスになると言われ、家庭用ビデオの登場が待ち望まれていた。当時業界8位、弱小メーカーと呼ばれていた日本ビクターもビデオ事業に乗り出した。しかし日本ビクターのビデオ事業部は不良品続きで返品が多く、不採算部門でいつ事業の解散が行われてもおかしくない状態だった。「部長就任はクビを言い渡されたようなもの」そんな噂すら流れていた。そんなビデオ事業部に異動することになったのは開発マンの加賀谷静男。加賀谷はビデオ事業部の有様を見て愕然とする。しかし、加賀谷は内に情熱を秘め、新しい家庭用ビデオを開発することを胸に誓う。そんな中、当時大学生の就職人気No.1の巨大企業であるソニーが革命的な家庭用ビデオであるベータマックスを開発し販売する。日本ビクター社にとっては絶望的なこの状況から、諦めない男、加賀谷静男に率いられ、ビデオ事業部は巻き返しを図る、、、」
実は、秋山家はベータ―マックス派で、このVHSに逆転された結果、多大なる被害を受けた家庭の一つです。(笑)
このビデオ戦争によってベータが敗北した後、私は小学生だったのですが、ビデオレンタル屋さんでの取り扱いはほぼすべてVHSとなってしまいました。数少ないベータを扱うビデオ屋さんでも、その取扱数は本当に少なく、同じゴジラの映画を何度も借りて繰り返し見た記憶が鮮明に残っています。
小学生だった私でも、カセットがコンパクトなベータが二回りくらい大きなVHSに負けてしまったのかということを純粋に不思議に思っていましたが、その理由がこの映画を見ることでよく分かりました。
実は、日本ビクターのVHS開発以前には、実にさまざまな規格が存在しており、具体的には5社6規格というまさに乱立状態でした。
ところが、1975年、ソニーがベータマックスという性能とコンパクトさを両立した規格を開発したことで、東芝、三洋電機、NEC、富士通ゼネラル、アイワ、パイオニアなどがそれを受け入れ、いわゆるベータ陣営を構築しました。その勢いは当初すさまじいものがあり、監督官庁である通産省が、ほぼソニーのベータマックスで一本化するようにそれ以外の企業を促すような動きにまでなります。
そんな中で、ただ一社(というか、一人)その動きに屈せずに自らの規格を堅持しようとしたのが日本ビクターの高野鎮雄(映画では加賀谷静男)ビデオ事業部長でした。
その原動力は、疲弊しきった日本ビクタービデオ事業部を何とかして救わなくてはという事業部長としての「責任感」と、画質や性能を追い求めすぎて当初「録画一時間」としていたベータに対して、消費者への聞き込みにより、多少性能は落としても、「録画二時間が必須だと見切ったという徹底した「消費者志向」による開発マンとしての「自信」だったように思います。
実際に、当時の日本ビクターの親会社松下電器産業の創業者である松下幸之助氏に直訴するなどして、その本質を理解させる努力をしています。
遂には、その直訴の甲斐あって、松下電器産業はVHSの採用を決めます。松下の決定に端を発し、シャープ、三菱電機、日立、船井電機などが続いて採用を決めることによりVHS陣営が構築され、風前の灯火であった日本ビクターのVHSは、ベータとビデオ戦争を繰り広げることになります。
1980年代半ばには「VHSの実質的勝利」という認識が拡がり、東芝・三洋などベータ陣営のメーカーもVHS方式の併売をはじめ、程なくベータ方式の新規開発を取りやめ、VHSへ完全に鞍替えすることになります。遂には、ソニー自身も1988年にVHSの併売に踏み切ることで、VHSは最終的には世界規格にまで上り詰めたのです。
この映画を見て、最近では、iphone、ipadなどのアップル社の一人勝ちの理由として「消費者志向」が言われるのが当たり前になってきましたが、実はこのころから「消費者志向」というのは「技術志向」に勝っていたのだなと強く思いました。
多くの機能を実現できる技術があるからと言って、それらを全て一つの製品に入れ込むことは企業の「自己満足」にしか過ぎない。そうではなくて、数ある機能の中から、本当に消費者が必要としている機能を厳選し、その厳選された機能を最も消費者が使いやすくすることに集中すること。
このことの重要性は、実は1970年代から明らかになっていたということに驚かされました。
そして、そのソニーが昨今不調であるのは、また当時と同じようなミスをおかしていることが理由ではないかと、この映画を映し出すテレビのリモコンの複雑さと、その横にあるiphoneの単純さを見て思いました。