ダークサイド・スキル
2022年3月18日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
前回ご紹介した「マッキンゼーの『問う』力」では、マッキンゼーの出身者が他のコンサル企業と比較しても実業界での活躍が抜きんでている理由として、彼らのコンサルタントとしてのMBA的スキルの卓越性ではなく、本質を追求するための「問う」力を鍛えることを習慣化する環境に身を置き続けてきたことだと確認しました。
つまりそれは、複雑でドロドロした対象に対して体当たりでぶつかって問題を解決する「泥臭い問題解決能力」、企業経営を「自分事」としてとらえる力と言い換えることができると思います。
今回は、企業経営者のみならずミドルマネージメント層にも求められるその「泥臭い問題解決能力」をもう一歩踏み込んで理解するため、「ダークサイド・スキル」という本を読みましたのでご紹介します。
著者は大学在学中にベンチャー企業を創業、10年間のマネジメント経験の後、事業戦略策定や経営管理体制の構築、組織開発・人事/報酬制度設計等に従事し、現在は(株)経営共創基盤の共同経営者として企業の支援活動をされている木村尚敬氏です。
(株)経営共創基盤と言えば、以前にこのブログでご紹介した「両利きの経営」に解説を寄稿されていた冨山和彦氏がCEOを務められている会社経営経験者、投資ファンド、金融機関、会計・法律事務所出身者などで構成されているいわゆるハンズオン型コンサルティング会社です。
ですから、その会社の共同経営者である著者は、言ってみれば企業の立ち上げから成長までを自ら経験した上で、コンサルサービスも行うgray-hairedであると言えます。
著者はまず、財務や会計の知識、営業・マーケティング系のいわゆるMBA的スキルを「ブライトサイドスキル(日なたのスキル)」とし、複雑でドロドロした対象に対して体当たりでぶつかって問題を解決するスキルを「ダークサイドスキル(日かげのスキル)」と定義しています。
この「ダークサイドスキル(日かげのスキル)」ですが、複雑でドロドロした問題への対処スキルである以上、財務や会計の知識やスキルである「ブライトサイドスキル(日なたのスキル)」と比べるとなかなか具体的イメージで理解するのが難しいのですが、本書の中で最も分かりやすく書かれていたと思われる部分を以下に引用します。
「私の尊敬する経営者であるJFEホールディングスの數土文夫元社長は常々、部下に対して、『皆さんの教の活動は、PLのどこに紐づいているのか説明できますか』と叱咤激励していたそうである。要するに、売上を上げるための活動、コストを下げるための活動、このどちらでもなければ、その日一日の活動は付加価値を生んでいないということになるとの意味だそうだ。」
その上で、今までの日本の大企業の出世パターンとしては「ブライトサイドスキル(日なたのスキル)」のみで対応可能な主力部門や北米市場などを経験させ、経歴にできるだけ傷をつけずにピカピカに育てていくというのが王道だったが、現在の変化の激しすぎるビジネス環境を考えれば、もはやそのような安全地帯でぬくぬくと育った減点されないエリートがトップとして相応しい時代は終わったと言います。
実際に、ソニーの再建に成功した平井一夫氏はもともと子会社入社からキャリアをスタートさせ最終的にトップとしてグループ全体の大復活を実現しましたし、日立製作所の再建に成功した川村隆氏も一旦本社の役員を退いて子会社の経営再建を経験した後に、大幅な赤字に陥った本社に呼び戻されるという異例の人事によってトップとなった人でした。
このように現在のビジネス環境では、失敗の経験からの修正を通して成功に導く手法をとらざるを得なくなっているため、トップにもミドルにも、ということは全ての構成員に「ダークサイドスキル(日かげのスキル)」の習得が求められると考えるべきです。
ということは、ソニーや日立での人事が「異例」のこととして取り上げられるというような現状を打破し、すべての組織でそのような人事が意図的、制度的に行われるようにしなければならないということでしょう。