ユダヤ人アインシュタインの葛藤
2023年11月12日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
昨日(2023年11月11日)の読売新聞夕刊「よみうり寸評」に今起きているパレスチナ問題の根幹を突きつけられるような記事がありましたのでご紹介します。
「ドイツ系ユダヤ人物理学者のアインシュタインは100年前にパレスチナを訪れている。欧州から船で来日した後の復路だった。ユダヤ人国家建設を目指す人々の招きで約2週間、講演や視察に入植地を行脚し、日記を書き残している。<エルサレム在住を求められている(略)私のハートはイエスと言っているが、頭ではノーだ>英国の委任統治下で、ユダヤ人入植者とアラブ人との緊張が高まり始めたころである。今のイスラエルにつながる国家建設の夢に、冷めた論理も働いたのだろうか。9年後、『人間を戦争から解き放てるか』と精神分析学者のフロイトに問うた手紙にはこうつづっていた。人間には憎悪にかられ、相手を絶滅させようとする本能的な欲求がある・・・と。そんな憎悪が1世紀後に渦巻いているのは、天才科学者の慧眼というべきなのかもしれない。」
この記事から読み取れるのは、古代ローマ軍にパレスチナを追われて以来、世界各地に離散していたユダヤ民族が「イギリスのお膳立て」によって母国への帰還を果たすこととなったシオニズム運動の成果を、ユダヤ人の気持ち(ハート)からすれば喜ばしいことだが、その帰還は一方で、すでにその土地に生活するパレスチナ人の犠牲の上に成立せざるを得ない現実を、聡明な科学者の思考(頭)からすれば、それを受け入れることはできないという葛藤です。
そもそも、このパレスチナ問題は、第一次世界大戦時にイギリスが戦争資金を調達するためユダヤ人コミュニティに協力を仰ぎ、 「パレスチナにユダヤ国家建設を支持する」と表明した書簡を送り(「バルフォア宣言」)、同時に、オスマン帝国からの独立をめざすアラブ民族主義をも利用すべく、 メッカの太守フセインに対してイギリスへの協力の代わりに「アラブの独立支持を約束する」という書簡も送り (「フセイン・マクマホン協定」)、そしてさらに同盟国であるフランスとは、戦争終結後は分割するという協定(「サイクス・ピコ協定」)を秘密裏に結ぶという、いわゆる「三枚舌外交」によって引き起こされたものです。
詳しくはこちらをご参照ください。
つまり、この問題はそもそもイギリスの自己中心的で不誠実な振る舞いによって引き起こされたわけであって、ユダヤ人(イスラエル)もパレスチナ人も当事者でありながら、被害者でもあるという非常に複雑な状況に置かれてしまっていると言えるのです。
そんな中で本日の朝日新聞のウェブ版には次のような記事がありました。
「イスラエル軍からの攻撃により、パレスチナで多くの犠牲者が出るなかで、ロンドンで11日、多くの英市民がイスラエルのガザ侵攻に反対する『パレスチナ連帯』デモ行進を実施した。1850人体制で警戒にあたったロンドン警視庁によると、推計30万人が参加したという。ブラバマン内相が英紙への寄稿でデモを『ヘイト(憎悪)マーチ』と呼んでデモの参加者をけなしたり、スナク首相も最大野党・労働党のスターマー党首も『停戦』を呼びかけることには否定的であることに対して、市民の不信感が募っていることもあり、多くの市民を動員することになった。デモに参加したショーン・オブライエンさん(56)は『西側諸国が傍観し、その間に市民が殺されている事実に腹が立つ』と語る。イスラム組織ハマスの越境攻撃については『対応が必要だ』としつつ、『イスラエルは完全に、弱い者いじめのように振る舞っている』と非難。『事実上、アメリカのバイデン大統領しか止めることはできないのが残念だ』と嘆いた。」
パレスチナ問題の元凶を作ったイギリスが、一方的にイスラエルを断罪することも、そのデモを行う市民をけなしてイスラエルの攻撃を支持することも、そしてこの問題の解決をアメリカに丸投げすることも、いずれの側面から見ても到底あり得ないことであり、この国全体の当事者意識のなさが浮き彫りになったニュースでした。
イギリス政府も国民も、今やらなければならないことは、反イスラエルデモでも、イスラエル支持でも、アメリカ頼りでもなく、一人でも多くのパレスチナ難民を自国内に受け入れることではないかと思います。