
不平等な世界を表す不等式
2021年11月22日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
三年前になりますが、トマ・ピケティの「21世紀の資本論」を読んで「AI時代の新しい資本論」という記事を書きました。
その中で彼は、
「労働力よりも資本すなわち、土地や工場など労働力以外の生産要素の重要性が少しずつ高まってきていることを意味します。そして、それがAIの進展によって、自動的生産が可能な時代になったとしたら、その割合は圧倒的に資本有利となる。」
という主張をされています。
冒頭の「r>g」という不等式は、その彼の主張の根拠となるものです。
「r(資本収益率)」は資本ストックに対する収益の増加率、「g(経済成長)」は所得というフローの増加率です。
18世紀から現代にいたるまでの様々なデータを参照した結果、そのいずれの時代においても「r」すなわちお金がお金を生み出す力が、「g」すなわち人間が労働によってお金を生み出す力よりも大きいということを証明したのです。
しかも、期間全体の平均をとると「r」が年に5%程度であるにもかかわらず、「g」は1~2%程度にすぎないといいます。
彼が本書を出版した当時(日本では2014年)は、世界中が彼の説を「新しい視点」だと認識したからこそ、あれほどまでの世界的なベストセラーになったわけですが、あれから7年がたった今、このことは世界中の人々が「実感」として感じるようになってきており、多くのメディアでも当たり前のように取り上げられています。
ただ、面白いことに昨今の取り上げられ方は、トマ・ピケティが「21世紀の資本論」の中で訴えたのとは全く正反対の様相を呈しているように私には見えます。
というのも、トマ・ピケティは「r>g」によって圧倒的に資本有利となってしまうので政府が累進課税型の財産税や所得税によって富の再配分をする仕組みが必要になるという文脈で本書を書いていたのですが、昨今のメディアでは「r>g」だからこそ、それを活用して富を増やす必要性を訴える文脈が増えている気がするのです。
例えば、この記事。
これは大和ネクスト銀行の「富を築くために理解しておきたい『r>g』という不等式」というタイトルのおすすめコラムです。
「『r>g』による不均衡を是正するためには、累進課税型の財産税や所得税を設け、タックス・ヘイブンへ資産を逃がさないように国際社会が連携すればよいというのがピケティ氏のアイデアだ。しかし、このアイデアを実現するのは、現実的には不可能だろう。したがって資本主義の中で生きる私たちは、この『r>g』という現実の中で何かしらの手を打たねばならないということになる。その打ち手が株式投資や不動産投資だ。」
トマ・ピケティがこの記事を見たらどう思うのだろうか気になりますが、私はこのような文脈で彼の主張を利用することは悪いことではないと思います。
というのも、このことは以前にご紹介した「気候変動問題」の解決の手法と同じことだと思うからです。
「ただその上で踊らされる(コストをかける)のではなく、その意味を理解して、自分の意志で踊る(利益を上げる)ことができるようにすべきではないか」
現実を知った上で現状を自分に有利な方向にもっていく努力をすることの重要性はどんな問題解決にも共通のことだと思います。