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平安時代の日本語の発音について

2025年6月15日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

日本語の発音はどう変わってきたか」の中で解説されている各時代ごとの日本語の発音の特徴について見ていくシリーズの第二回目は「平安時代」です。

まずは発音の前に平安時代に起こった日本語における大事件としての「平仮名」「片仮名」の誕生について簡単に見てみます。

平仮名は、手紙を書くなどの日常生活の中で「以」を「い」、「左」を「さ」のように万葉仮名を自然に崩してできたものです。

片仮名は、漢文を訓読する現場で、「伊」を「イ」、「加」を「カ」のように、送り仮名として使われた万葉仮名の字画を略してできたものです。したがって、これで文章を綴るということはありませんでした。いわば、片仮名は漢文を読み下すための符号であるから、美的鑑賞の対象ではありえず、今も書道の教程では存在感が薄い。そのため、使う人の個性を消して使われるため、聞きなれない外国の人名地名や「サラサラ」「ドスン」などの擬態語擬音語に使われるのは、この符号的特徴を保持しているためと言われます。

いずれにしても、平仮名も片仮名も表音文字として万葉仮名より洗練されており、一音に対してほぼ一字が対応するので、書き手にとっても歯後の形が安定し、万葉仮名より初期の速度が大幅に改善したと言えます。

このことから、奈良時代にはなかった、物語や日記などの散文が書けるようになって平安文学が花開くことになったのでした。

このいずれもが、平安時代の初めころに起こり、九世紀半ば以後には日本の知識人は漢字漢文、平仮名、片仮名を自由に使いこなしていました。

この平仮名の表音文字としての革新的優位性によって、音声変化が速やかに文字に反映されるようになったため、歴史的音声変化を受けやすくなったと言えます。

ただ、このことはオリジナルを書き込むときには音声を正確に記録するというメリットとなるが、一旦それが資料として出来上がった後、後世に何度も写本されていくうちに、その時々に変化を織り込んでしまうために、コピーされればされるほどその信頼性が低くなってしまうというデメリットとなると言えます。

そのため、平安時代の資料でも、万葉仮名が使用されている初期のもののほうが、平仮名が使用されている中後期のものよりも信頼性が高いということになります。

このような前提をもとに具体的に平安時代に起こった発音の変化について見ていきます。

まず、平安初期から中頃に出現した変化として以下のような四種類の「音便」があります。

1.イ穏便:「書きて」→「書いて」

2.ウ穏便:「買ひて(かフィて)」→「買うて(かうて)」

3.撥音便:「積みて」→「積んで」、「何そ(なにそ)」→「なんぞ」(mやnの直後の母音が脱落)

4.促音便:「切りて」→「切って」、「打ちて」→「打って」(リやチの音節ごと脱落して発音すべき時間だけ沈黙し詰まる)

ただし、「撥音便」と「促音便」は伝統的な和語の音節にないものだったため、表記は一定しておらずいろいろなものが試みられていたました。例えば、「ななり」と書いて「なんなり」、「ととまて」と書いて「とどまって」など、現代のような表記ではなかったが、発音は左記の通りと推定されています。(『ん』という表記が上代の日本語には存在していなかったことについては「『ん』日本語最後の謎に挑む」を参照)

平安初期~中期までは、このような撥音便や促音便の表記が一定していないという例外はあっても、優秀な表音文字である平仮名の存在によって基本的には発音を忠実に文字が再現する「言文一致」が続きましたが、11世紀後半以後、語中語尾のハ行音「川(かは)、貝(かひ)、問(とふ)」などがワ行音(わ・ゐ・う・ゑ・を)に推移する地滑り的変化が起こりました。

例えば、それまで「川」をkafaと発音していたのがkawaとなる、これを「ハ行転呼音」と言います。

これが奈良時代には起こらず、平安時代のこのタイミングで起きた理由についてですが、以前学んだように奈良時代のハ行音は「パ・ピ・プ・ぺ・ポ」だったものが平安時代には「ファ・フィ・フ・フェ・フォ」というように両唇の動きが少し退化して子音が「f」に推移していて、この子音「f」がより発音しやすい「w」に変化したということのようです。

この「ハ行転呼音」と並行して「ゐ(wi)・ゑ(wu)・を(wo)」の「い(i)・え(e)・お(o)」への合流(統合)です。

このあたりは、私たちが現在使っている発音に非常に大きな影響を与えているということが実感できるので非常に興味深く感じることができました。

 

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