自滅する選択
2016年9月14日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
だいぶ前に、「学力の経済学」という本を紹介する記事を書きましたが、その本の著者で慶應大学の中室牧子先生の講演を聞く機会がありました。
本もそうですが、この講演のテーマは教育の「科学的根拠」です。
その中で、面白いトピックがでました。その一つとしてあげられたのは、「夏休みの宿題を早めにやる子と、ぎりぎりにやる子の将来の追跡」というものです。
まさに、講演のメインテーマど真ん中の議論ですが、このことについて深堀した面白い本として「自滅する選択」という本を紹介されたので読んでみました。
非常に面白い内容でした。ただ面白いだけではなく、自分や周りの人の習性を分析されているようで、なんだかくすぐったいような気分になるほどでした。
歴史的には「米百表の精神」、卑近な例でいえば「消費者金融で借りてパチンコで浪費する」や「将来肺がんになるリスクが高まることが分かっていてもこの一服がやめられない」といった、いわゆる「異時点における選択」についてなぜそのような合理的判断をするものと非合理的、すなわち自滅的な選択をしてしまう者が存在するのかについて書かれています。
この違いは、各人における「時間割引率」の違いによって生じると本書は言います。つまり、将来得られる利益や、被る損失を今の状態でのインパクトに置き換えて考えるその割引率のことです。
もう少し分かりやすく言うと、私たちの内面には長期のことを考える自分(天使)ともっぱら短期の利益に目が行く自分(悪魔)がいて、天使は低い時間割引率によって立派な長期の行動計画を立案しますが、その実行はその時々のせっかちな悪魔の手にゆだねられることになると言うような話です。
そして、この「せっかちさ」がまさにこの「時間割引率」です。
ですから、「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、藩の教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」とした長岡藩の人々は時間割引率が低く、この「お饅頭を食べないことによって生じる余分な脂肪が減る量など、現在に換算したらほんの少ししかない」と思ってしまう私は時間割引率が高いというわけです。(笑)
ということになると、教育においてやるべきことは、そのままにしておくと人によって大きく差が出る「時間割引率」を、そのインパクトを的確に教えることによって最低水準に抑えることによって最大限の教育効果が出るようにしてあげることではないかと思います。
以前もどこかに書きましたが、かつて私が中学生向けに学習塾で教えていた時、あまりに勉強する習慣がついていない子供たちに対して以下のように言ったものです。
「君たちは、これから勉強したら一時間あたり1万円あげると言ったら、隠れてでも体を壊しても夜中まで勉強するだろう?(はい:ほぼ全員)では、君たちがこれから大学受験まで一日3時間しっかり勉強するくせをつけて、希望する大学に入り、人とは差別化できる仕事(生涯収入仮に3億円)に就くことによって、このまま差別化できない仕事(生涯収入仮に1.5億円)についたときとの差額1.5億円を手にするとする。中学二年生の今から大学受験まで週5日1日3時間5年間で3900時間勉強することになるので、差額の1.5億円を3900時間で割った時間当たり金額は38万円だ。ということは、君たちはたかだか1万円で体を壊すまでほぼ全員が頑張れると言っているのに、38万円では動かないということになるよね。」
上記の発言は割引率を無視したものではありますが、たとえどんなに時間割引率が高い(せっかちな)子供でも、これだけの金額であったら、その割引された時間当たりの現在価値は決して1万円は下回らないと思うのです。
学校教育でここまで露骨なことを言うかどうかは別として、「時間割引率」のインパクトを的確に理解させる工夫を教育する側はする責任があると改めて強く思いました。