「日米会話手帳」はなぜ売れたか #94
2015年1月8日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介
【書籍名】 「日米会話手帳」はなぜ売れたか
【著者】 朝日新聞社編
【出版社】 朝日文庫
【価格】 ¥485 + 税
【購入】 こちら
戦後日本の英語とのかかわりにおける社会的な反応を起こした書籍は数多くあります。
この書籍紹介ブログで紹介したものだけでも、1974年に大宅壮一ノンフィクションを受賞しベストセラーとなった中津燎子氏の「なんで英語やるの?」、また同じく1974年に平泉氏と渡部氏の間で始まった「英語教育大論争」、2000年に故小渕首相の私的諮問機関の座長であった船橋洋一氏のよる「英語公用語論」などがあげられます。
しかし、その中でも一番古くて、おそらく最もインパクトがあったと言っていいのがこの「日米会話手帳」の出版というイベントだったのだと思います。
なにせ、出版元である誠文堂(実際の発行は子会社の科学教材社)の社長である小川菊松氏は終戦の日、1945年8月15日に「日英会話」に関する出版の企画を思い立ち、部下に対して命ずるや、一夜で和文の原稿を作り、それに英訳を入れて、32ページの「日米会話の手引き書」として、実に終戦からちょうど1か月目に刊行され、3か月で360万部という大ベストセラーとなったというすさまじいものでした。
本書「「日米会話手帳」はなぜ売れたか」は、12名の論客がこの現象について論じるというものです。
付録として実際の「日米会話手帳」の全ページが写真として載っており、戦後初めて出版された英語に関する本の雰囲気が良く分かるようになっています。
もちろん、本書は「日英文対訳をそのまま載せたもの」ですので、日本人が体系的に英語を学ぶために作られた学習書ではなく、いわゆる「あんちょこ」書の類です。その内容を見てみると、発音について「カタカナ」で表記されている点などはいただけないのですが、現在のような日本式発音ではなく、英語の発音をできるだけそのまま表記しようという姿勢がみられます。
しかも、日本語で表記できる限りにおいて、発音の別を表そうという努力も見られます。例えば、「have(ハヴ)」「get it(ゲッティット)」「This(ズィス)」などです。
カタカナを使用している時点でアウトはアウトだと私個人としては考えますが、会話手引書として評価すれば「ハブ」「ゲットイット」「ジス」よりはずっと発音に対する機能性は担保できると思いました。
とにかく、日本人が戦後初めて英語に向き合うきっかけという歴史的イベントを追体験する機会となりました。
文責:代表 秋山昌広