「動詞」に関する二つの「哲学」
2022年8月26日 CATEGORY - 日本人と英語
書籍紹介ブログにてご紹介した「英文法を哲学する 」からテーマをいただいて書いてきましたが、今回の第八回目で最終回です。
最終回のテーマは「動詞の分類の仕方」についてです。
私は自身が主宰する「文法講座」における哲学として最も大切にしているのは、日本人が英語を学習する際に英語の「文型」をどこまでも重要視するべきだということです。
重要視すべき「文型」とは、SV,SVO,SVCの三つです。
そして、それは「動詞の分類」の重要性に直結することです。
SVのVは「自動詞」、SVOのVは「他動詞」、そしてSVCのVは「be動詞(becomeやseemなど「S=C」としてイコールとなる動詞を含む)」で英語の動詞は全てこの三つのいずれかに分類されると説明しています。
しかし、このように説明すると一部の受講生から「be動詞、become、seemは自動詞だと習いました。だから、英語の動詞は全て自動詞と他動詞の二つに分類されるのではないですか?」という意見が出たことがあります。
その際、私は「英文法」というのは誰かが意図して作ったものではないので、既に存在しているものを文法学者がそれぞれの「仮説」に基づいてできる限り整理できるように分類したものであるため、確実な正解はないこと、そしてどの「仮説」をとってもあちらを立てればこちらが立たずという「不具合」がどこかに生じてしまうものであることを伝えるようにしています。
その上で、「英文法」というものをどの仮説を用いれば、最初から最後までを無理なく説明できるよう「一本筋」を通せるかという視点でひとつの「仮説」を採用することが重要だということも付け加えています。
私はまさにこの採用方針こそが、著者の言う「哲学」だと思うのです。
今回は、「動詞」に関する二つの仮説をご紹介することで、上記の受講生の質問にお答えしたいと思います。
まずは一つ目は、「英文法汎論」の著者で日本の5文型教育の祖とされ細江逸記氏の分類です。
英語の動詞はおよそ次の2大別5小類に分けられる。
Ⅰ自動詞 | A:完全陳述自動詞 | come go sleep |
B:不完全陳述自動詞 | be become seem | |
Ⅱ他動詞 | C:単純他動詞 | catch kill study |
D:付与動詞 | give send show | |
E:作為動詞 | make elect keep |
なるほど、SVの後に何も来なくても文が完結するcome go sleepなどをA:完全陳述自動詞として、be become seemなど目的をとらない動詞なのにCという別のものがないと完結しないものをB:不完全陳述自動詞として扱うことで二元論的に説明でき、シンプルな分類を実現しています。また、他動詞も三つの異なった性質に分けられているので動詞の分類としては確かに親切な仮説だと思います。
二つ目は、現代英文法の権威ある一冊になっている「A Comprehensive Grammar of the English Language」の著者ランドルフ・クワーク氏による分類です。
Ⅰ SVに収まる「自動詞」 come go sleep
Ⅱ SVOおよびその発展形に収まる「他動詞」 catch kill study give send show make elect keep
Ⅲ SVCに収まる「͡連結(copula)動詞」 be become seem
上記で説明をした私の講座はこちらを採用しているのだということがお分かりいただけると思います。
そして、私がこの仮説を採用する理由は、この分類を使えば、SV,SVO,SVCの三つの文型を「動詞の種類」という観点から完全に説明できるようになることです。
それによって、学習の開始からどこまで習熟した段階であっても、全ての文章を一瞬にしてこの三つに分類することができるようになるのです。
全ての文章がこの三つに分類することができるということを理解できれば、学習初日でその受講生は英文法で最も根本的な部分を理解したと自覚することができます。
なぜなら、それ以外の文法知識は全て「おまけ(枝葉末節)」の知識であるという認識が出来上がり、大船に乗ったような気持ちで英語学習を進めていくことができるからです。
英語を教えるにあたって何を重視するためにその「仮説」を採用するのか、英文法を教える人間はそのことに対してはいくら意識しても意識し足りることはないと思います。
その採用動機自体がその人の「哲学」なのですから。