
日本語らしい英語を作る
2019年3月29日 CATEGORY - 日本人と英語
書籍紹介ブログにてご紹介した「プロフェッショナルイングリッシュ」からいくつかテーマをいただいて書いてきましたが、今回が最終回です。
最終回のテーマは、「日本語英語の確立」です。
このテーマは以前にも「世界の英語を歩く#54」でも取り上げました。
英語を国際共通語としてとらえるのであれば、もはや「ネイティブ英語」は正解ではない。
今伝えたいことを伝えられることが正解であり、相手方の文化に存在しない概念を自分の文化がもっているのならば、それを伝えることができる英語は世界の価値を高めることにもなる。
だから、ネイティブ英語の中にはない独特の表現が豊富にある「非ネイティブ英語」を恥じることではなく、むしろ胸を張るべきもので、「シンガポール英語」や「インド英語」などと、「○○」と英語の前につく国は誇るべきものだとする考え方です。
著者の一人スティーブ・ソレイシー氏によるその点に関する以下のような指摘がありましたので改めて取り上げてみました。
「日本に暮らしていると、『おもしろいなあ』と思う日本語に出会うことが良くあります。例えば、『お疲れ様です』。この言葉には思いやりのニュアンスが含まれていて、とても『日本的』な感じがします。これをどのようにして英語で表現するか。そのポイントは日本語のマインドにあります。その表現の裏側に隠された意味は何か、その表現の目的に合った英語の基礎表現を見つけることができれば『情緒』も出すことができます。(一部加筆修正)」
私もアメリカ留学時代、このミッションに取り組んだことがあります。
「You must be tired.」ではまったくその背景の意味、そしてそれを言う目的に合致しておらず話になりません。
「お疲れ様」という表現を使う目的は、相手の労をほんの「少しだけ」ねぎらいながら、「こんにちは」や「さようなら」などのあいさつ程度のコミュニケーションをさりげなく行うためのものでしょう。
この微妙な感覚を著者は、日本的な情緒だと感じ、「おもしろいなあ」と思っているわけです。
でも、そうなるとますます難しくなって、結局私のこのミッションは失敗に終わりました。
一方で、私が「さすがだな」と思う「○○」と英語の前につく英語の表現は、「Long time no see.」です。
これは、「お久しぶりです」という意味で、今やネイティブも使用するものですが、この表現のオリジナルは推測にすぎませんが中国語の「好久不見(長い間会ってないね)」だと思います。
元ネタが中国語なので、おそらくこれは「シンガポール英語」なのではないかと思われます。
この「お久しぶり」という表現は日本語にもあるように非常に東洋的で、特に「長く会っていない」という事実にそれほど意味を持たせずにたださりげなくその事実を伝えつつ、挨拶をするのに便利な表現です。
この「Long time no see.」は、「好久不見」の「情緒」と「機能」をほぼオリジナルと同じくらいの精度で両立させており、しかもそれを本家本元のネイティブにも「使わしめ」ているのです。
まさに「○○」英語冥利に尽きると言うべきだと思います。
日本語には、中国語に負けないくらい「情緒」と「機能」を併せ持つお宝言葉がたくさんあるはずですから、「Long time no see.」に負けないくらいのフレーズが豊富な「日本語英語」の確立を目指してもらいたいと思います。