
過去完了形に伴うsince節の時制について
2022年12月30日 CATEGORY - 日本人と英語
今回は、書籍紹介からのテーマ設定ではなく、私が常日頃から抱えていた「疑問」がようやく氷解した件について書きたいと思います。
2021年度の中学校学習指導要領の変更に伴って、私が主催する「文法講座」の名称を「中学三年分の英文法を2泊(5泊)で血肉にする合宿」から「全項目を網羅した英文法を2泊(5泊)で血肉にする合宿」に改名し、当講座に【仮定法】を追加することと、その理解を深めることを目的として、今回の指導要領では追加されない【過去完了形】も併せて追加することといたしました。(詳しくはこちら)
その「疑問」とはその新たに追加した【過去完了形】に関する以下の内容です。
「過去完了形」は基本的には「現在完了形」の時間軸を一つ過去方向にずらしたものです。
そもそも「現在完了形」とは「(過去形は過去の一点についての事実しか表現しないのに対して)過去の一点に起こった動作によって現在どんな状況がひきおこされているのか(完了・経験・継続)まで含めて表現する方法」ですから、その時間軸を一つずらしたものということは、「過去完了形は、大過去の一点に起こった動作によって過去にどんな状況がひきおこされたのか(完了・経験・継続)まで含めて表現する方法」ということになります。
現在完了形(継続)の論点に、従属接続詞sinceを使ってその過去の動作の「始点」を表現するというものがあります。
He has liked her since he was an elementary school student.(彼は小学生の時からずっと彼女が好きです。)
ちなみに、現在完了(継続)に関して言えば「終点」はすべて「現在」となりますのでそれを表現する必要はありません。
一方で、過去完了は、一つ時間軸がずれるわけですから、「始点」(大過去)と「終点」(過去)の両方を示す必要が出てくるというのが当然の帰結だと思うのです。
しかし、インターネットでいくら調べても実際には以下のような「終点」(過去)のみしか事例が出てこないのです。
I had been the best student before I gradeated.(私は卒業までずっと最高の生徒だった。)
おそらくですが、一つの文にいくつも情報を入れ込むことを避けながら、「始点」と「終点」では後者のほうを優先すべきとの判断の結果だと考えられます。
実際に当講座においても私はそのような説明で濁しながらも、理論的には、例えば「入学してから」というような動作の「始点」があってもよいはずで、その場合since節のなかの「時制」がどうなるかが問題となるわけですが、あくまでも「始点」のタイミングは「大過去」なのだから「過去完了形しかありえない(はず)」と私の個人的な考えと断ったうえで伝えてきました。
とはいえ、実際にそのような事例を目にしたことはなかったのでずっと気になっていました。
そんな中、先日ついにこの件に言及されている学術論文を見つけることができたのです。
以下、当該「英文法拾遺Ⅳ」(雑誌名:人文論究 著者:伊藤清 1985-07-20)の該当部分を引用します。
「時制が過去完了形の主文に伴うsince節の時制は、過去完了であることが当然であるが、実際には過去形も多く存在する。主節で時制が明確に示されておれば、その時制と関係あるsinceを含む節の時制は推察されるため、時間的差を明らかにする必要がなければ、労を省こうとする人間の本性に従って簡単に過去形で済ませることも多い。主文の時制以前の時間であることを明確にしようとする場合には過去完了が用いられる。(一部加筆修正)」
この説明には以下のような例文が併記されていました。
A foot of snow had fallen since the last sled had passed over, and he was glad he was without a sled, traveling light.(最後の最後のソリが通って以来1フィートの雪が降っていた。そして彼はソリなしで身軽に旅ができることが嬉しかった。)
「疑問」が完全に氷解したことに満足しながらも、私が今までしてきた説明でほぼ問題なかったことが分かりホッとしたというのが正直なところです。