日本人と英語

「黒人」は何と呼ぶべきか

2022年3月30日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英語の新常識」からテーマをいただいて書いていますが、第三回目のテーマは「黒人」の人々に対する呼称です。

以前に「人種は生物学的概念ではない」という記事の中で、「ヒトは遺伝学的には99.9%同質であり、人種の違いは認められない」という事実を確認しました。

ですが、実社会では便宜上その違いを所与のものとして扱わなければならない場面は結構あります。

一般にアメリカでは、「黒人」(や「ヒスパニック」)の人々を「マイノリティ(少数派)」と呼びますが、それは明らかに「白人(WASP:White Anglo Saxon Protestant)」を「マジョリティ(多数派)」(と明確に表現はしなくとも、)少なくとも彼ら自身がそのように自認し、黒人の人たちをその対照にある存在であるとした表現であることは間違いありません。

アメリカの内政の歴史は、ほとんど「人種間の歴史」でもあると言えるほど、(たとえ生物学的にはその差はないと言われても)社会学的には大きな差が存在するというのが現実です。

そしてその「人種間の歴史」は「黒人」に対するマジョリティ(多数派)側の「呼称の変遷」の歴史とも言い換えることができると思います。

以下にその変遷について本書の内容を要約します。

「意外なこと」に、その変遷の最終的な形としては「(最初を大文字にした)Black」とするのが流れです。

実際に「APスタイルブック」(AP通信によって毎年6月に改訂される報道に関するガイドラインブック)の2020年版には「人種や民族、文化」についていう場合にこれを使用すると明記されおり、全米のほとんどのメディアがその形を採用しています。

私はここで「意外なこと」だと書いたのは日本語の響きとして「黒人」というのがどこか差別的なニュアンスがあると感じられ、一般的に日本人は最近になって「アフリカ系アメリカ人」と呼ぶべきだというアメリカにおける運動の存在が理解されつつあると思ったからです。

しかしながら、この「アフリカ系アメリカ人」という言葉と「黒人」という言葉が全く同じではないという問題があります。

「アフリカ系アメリカ人」という言葉は1980年代頃から広まり始めた「自分たちのルーツはアフリカである」という立場を明確にするものですが、黒人の中には近代になってカリブ海諸国やヨーロッパから「自らの意思」で移民してきた人たちもいて、彼らは自らを「アフリカ系」と自認していません。

その意味で「アフリカ系アメリカ人」=「黒人」は完全には意味として成立しないのです。

1980年代以降、「黒人」に対する呼称として「アフリカ系アメリカ人」という言葉が広まる前にはもともと「Negro(ニグロ)」という言葉が使われていました。

この言葉はラテン語のnigreos(黒)からきており、学術的な人種を表す「ニグロイド」と語源は一緒であるためもともと差別的な意味合いはないはずなのですが、奴隷制時代から「黒人奴隷」を表す言葉として1960年代ぐらいまで使用されてきたことから英語の「Negoro」もしくはもっと侮蔑的な「Nigger」の持つニュアンスを払しょくするするために「black」という単語が登場することになったようです。

そして、この「black」が「(最初を大文字にした)Black」に進化したきっかけと言われるのが、2020年5月にミネアポリスの白人警官に差別的な対応をされた末に死亡したジョージ・フロイド氏の死亡という痛ましい事件です。

この事件を機に全米で巻き起こった運動のスローガンは「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」です。

このスローガンの中に堂々と「(最初を大文字にした)Black」が使用されていますが、小文字だと「黒色」を意味する「形容詞」としての意味合いが強く感じられるのに対して、大文字は「固有名詞」としての意味を押し出せるためだそうです。

 

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