「おしゃべりの才能」が現生人類を繁栄に導いた
2024年2月26日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
前回に引き続き、「人体600万年史」からテーマをいただいて書きたいと思います。
前回は、我々現生人類(ホモ・サピエンス)と旧人(ネアンデルタール人)との間で、方やこれだけの繁栄を築き、方や完全にこの世から消滅をしてしまったという非常に大きな結果の差を作り出したのがそれぞれの脳のほんのちょっとの違いだったという事実を確認しました。
今回は、その脳のほんのちょっとの違いとともに、「顔がほんのちょっと引っ込んでいる」という外形上の違いが現生人類を圧倒的に独創的な存在に押し上げることにつながったという事実を確認したいと思います。
著者は、その「顔がほんのちょっと引っ込んでいる」という一見すると大したことのない特徴が、次のような飛躍につながったと言います。
「私の推測ではネアンデルタール人は極めて賢い人々だったと思う。だが現生人類のほうがより独創的でよりおしゃべり好きだったのだ。いくら賢くて何かを発明できたとしてもそれを伝えることができなかったらそれは役に立たない。実際、現生人類の文化的進歩は文書、電話、インターネットなどより効率的になった情報伝達手段によって成し遂げられた。だがこれらよりもさらに以前にもっと根本的なコミュニケーションの大飛躍があったのだそれがすなわち現生人類の『発話』である。ネアンデルタール人などの旧人類も言語は持っていた。しかし、現生人類はその独特の短い引っ込んだ顔のおかげで明瞭で聞き取りやすい言語音を非常に速いペースで発することにたけていた。つまり、こんな弁舌さわやかな種は私たちだけなのである。」
以下、その構造について具体的にそして詳細に書かれている部分から該当部分を引用します。
「大半の動物は声を発するが二つの理由から人間の声道は特殊だ。第一に、私たちの脳は舌と舌の形状を変化させる構造の動きを迅速かつ正確に制御することに長けている。第二に、現生人類の顔は短くて引っ込んでいる(道具を発明したことで咀嚼に使う筋肉と大きな臼歯が不要となったため)という特徴があるため、私たちの声道の各部分は音響上の有益な特徴を備えた独特の配置をしている。具体的には右上図の通り、顔が短いため口腔も短くしたが長く平坦でいることができず短く丸まっていること、人間の喉頭(のどぼとけ)の位置が低いことから、声道の垂直管が長く、水平管とほぼ同じ長さになっている。一方で、チンパンジーや旧人類はほかの哺乳類と同様に、垂直管が短くて水平管が長い。声道の二つの管の長さが等しいと、そこから発せられる母音は振動数の違いが顕著になるので、適切な発生をするのにあまり正確さを必要としない。つまり人間は声道の独特の配置のおかげで、しゃべるときに多少ぞんざいであっても、聞き手が文脈に頼らなくても正しく認識できるくらいに明確に分離した母音を発することができるのである。例えば、your mother ‘s dad と言ったのをyour mother is dead と聞き間違えることはない。だとすれば、私たちの祖先が喋り始めた時点から、相手にわかりやすくしゃべることのできる声道の形状に自然選択上の大きな利点がネアンデルタール人に対してあったことは想像に難くない。」
前回確認したように、脳のほんのちょっとの違いが圧倒的な差を生み出したことで、現生人類が万物の霊長あり得る地位を確立したわけですが、それだけでは、我々現生人類が生物の中で一番であることの理由にしかなりません。
私たちが、「一番」という単純な「順位」の問題を超えて「圧倒的に独創的な存在」となり、ここ数千年において文化的進化を指数関数的に遂げることができた理由がこの「おしゃべりの才能」にあったということを今回確認することができました。