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なぜ現生人類だけが生き残ったのか

2024年2月26日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

前回ご紹介した「人体600万年史」から、あと二つだけテーマをいただいて書きたいと思います。

二回目の今回は、なぜ我々現生人類(ホモ・サピエンス)が数あるホモ属の中で唯一生き残ったのか、特に脳の大きさがほとんど変わらないばかりか、身体の大きさも頑強さでも上回ったネアンデルタール人にも勝ったうえで今の繁栄を築き得たのかという疑問についてです。

まず、前提知識を確認しておきます。

現生人類とネアンデルタール人の系統が最後に分岐したのは50万年前。

 ネアンデルタール人の祖先は早い時期に欧州やアジアへ移動したが、現生人類の系統はしばらくアフリカにとどまりました。

現生人類がアフリカを出たのが5万年前で、彼らが中東を通過する際にネアンデルタール人との間で異種交配があったと推定されています。なぜなら、ネアンデルタール人由来の遺伝子が現代のアフリカ人にはなく、それ以外の(私たちを含む)人々のゲノムに含まれているからです。

ネアンデルタール人の最後の痕跡は4万年前のヨーロッパに見られるので、現生人類は1万年程度の期間で彼らを絶滅に追い込んだということになります。

脳と体の大きさのどちらでも勝ってはいないのにも拘らず、現生人類が有利となった結果から考えると、あとは脳の「質」に違いがあるはずだと見当をつけるしかなさそうです。

本書によると、大脳新皮質のうちのそれぞれ別個の機能を持ったいくつかの部分(葉)のうちの3つにおいて現生人類とネアンデルタール人の間で違いが見られるようなのです。

以下にそれぞれの解説を引用します。

まずは①側頭葉。

「現生人類と旧人類の新皮質の最も明白で最も重要な違いは、側頭葉がホモサピエンスだけ20%ほど大きくなっていることである。あなたのこめかみの後ろにある二つの側頭葉は記憶の利用や調整に関わる多くの機能を果たしている。あなたが誰かの話を聞いているとき、あなたはその音声を側頭葉で知覚して解釈しているのである。そのほか、あなたが見たものや嗅いだにおいを理解するのを助けてもいて、例えばある顔にある名前を当てはめるときや何かの音を聞いたりにおいをかいだりした後に記憶を呼び起こすときにも側頭葉が働いている。加えて側頭葉の深い部分(海馬)は、あなたが情報を学習して蓄積するのを可能にしている。したがって、側頭葉が大きくなっている現生人類は、そのおかげで言語や記憶に優れていると推測してもおかしくはない。」

続いて②頭頂葉。

「現生人類のほうが相対的に大きいと思われるもう一つの脳の部位は頭頂葉である。ここは身体の様々な部分から入ってくる感覚情報を解釈し、統合するのに主要な役割を果たす。頭頂葉には多くの機能があるが、例えばあなたは脳のこの部分を使って、頭の中の世界地図で自分の位置を確認したり、言葉などの象徴を解釈したり、道具の扱い方を理解したり、暗算をやったりする。脳のこの部分が損傷を受けると、あなたは複数の仕事を同時にこなすことや抽象的な思考をすることができなくなるかもしれない。」

最後に③前頭葉(の一領域である前頭前皮質)。

「このクルミほどの大きさの脳の部位は、あなたの眉の後ろにあって、類人猿より人類のほうが6%ほど大きく、他の領域とのネットワークがより発達した、より複雑な構造をしている。残念ながら、人類の進化において前頭前皮質が相対的に大きくなったのがいつなのかは頭蓋の比較では明らかにならないので、これは現生人類において特別に大きくなっているのだと推測するしかない。しかし、この拡大が重要だったことはほぼ疑いない。なぜなら、脳がオーケストラだとすれば、前頭前皮質はその指揮者にあたるからだ。この部位はあなたが喋るとき、考えるとき、他人と相互作用するときなどにあなたの脳のほかの部分にやってもらうことを陰で調整したり計画したりするのである。この領域に損傷を負った人は自分の衝動を制御するのに困難を覚え、効率的に計画を立てたり決断を下したりすることができなくなり、他人の行為を解釈したり自分の社会的行動を調整したりするのが難しくなる。言い換えれば前頭前皮質はあなたが他人と協力したり戦略的に行動したりするのを助けているのである。」

つまり、現生人類はネアンデルタール人と比較して、①側頭葉が大きいことでより言語に優れ、②頭頂葉が大きいことでより抽象的な思考ができ、③前頭前皮質が大きいことでより他人と協力したり戦略的に行動したりすることができるのだと。

ほんのちょっとの違いが圧倒的な差を生み出すという事実に驚かされますが、逆に言えば、だからこそこのほんのちょっとの違いこそが私たち現生人類が万物の霊長と呼ばれるための要素そのものなのだと思います。

 

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